第17話 遠くて近きは…

 天空城は、実力で地位が推移する。一番上が天帝、次に龍王バルバトス、そして天帝直属の部下である三大公将軍と呼ばれる、狩人のアレグリフ(森から矢を放っていた男)天帝の代わりに外交などを行う副王ゲル・ミュール(長刀を持った男)、竜を殺して竜血を啜るというジュバーム(竜を模した鎧の男)達である。

 アレグリフとミュールとは話が出来たが、ジュバームとは会話が出来ない。彼は天帝の言葉しか聞かないと云う。

 さて、ここ天空城もといユーピテルでの私は、天帝補佐という肩書である。併し、補佐とは云っても、する事があるという訳では無い。

 アルが私と会った時、どんな顔をするだろうか、どんな託ち言を話すだろうか。私は嫌われていてもおかしくない。あぁ、会いたくて仕方が無い。私は天帝補佐になる事で、大陸指名手配と共に罪が無くなる。覇王とも云われるアトラヌスに逆らうのは、君主としては尤も恐ろしい事らしく、為にアトラヌスは国々へ免罪を命じたという。併し、私が殺人を犯した事自体は、無くなった訳では無い。常にそれを重んじなければならない。

 用意された自室のベッドに大の字でふす。そういえば、ミュール曰くイユはフィーユ達の所へ送ったらしい。イユが嘘を判別出来なければ、困難だったろうな。

 私が天帝補佐になる事及び、指名手配が無くなる事は、明日の新聞で世界に知らされる。それまで、私は外に出ない様に云われている。

 外套を羽織り、鎧を球体にし、テーブルに置く。相変わらず、この鎧の事はよく分からない。魔力を纏う様な感覚で鎧を纏う事が出来、魔法を出す様に剣を出す事が出来る。普段は躰のどこか、恐らく魔力と同期しているのに、物体にする事が出来る。やはり分からない。

 さて、武器は何も持たず、開いた掌から落ちぬ程度の路銀を持って、地上へ向かう。口や外套が空気を孕み、緑色の大地が見える。遠方には海が、森の中には川が。

 ウィレインの領地を飛んでいた事もあり、すぐそこに見えた。近くの森に着地した。検問所へ続く道を月並みに歩む。

 道中、優し気な商人が馬車に乗せてくれた。検問所に着くと、商人と訣れて銭を幾何か払おうとしたが、身分証が必要だと云う。賄賂を渡そうにも人が多い。やむを得ない、検問所の兵の目が届かない場所に行き、城壁を駆けて上る。

 登り切った所には、兵が数人いる。攻撃を避けつつ一人から槍を奪い、先端から少し下までを折って、街側の壁を折った槍で引っ掻きながら着地する。

 屋根々々を馳駆して裏路地の適当な店に入る。酒屋の様だが、悪人と同じ目つきや臭いがする。何より、店の下方から幽かに魔力を感じる。

 カウンター席に座り、数少ない知っている酒の、ラム酒を頼んだ。少し演技でもしよう。

私「マスター、私はここに調査に来たんだが、何か知らないか? ここら辺で奴隷が居ると云う噂を」

 後ろの席の男が一人立ち上がる。急に酒瓶で後頭部を殴られた。併、全くの感覚が無い。立ち上がって男の頭を掴んで、一瞬でカウンターに押し当てる。普段よりも手加減しつつ、全員を気絶させて拘束した。

 地下への扉が見つからない。足踏みして床を壊すと、少女が居た。拘束した男達を大通りに投げ捨て、ラフィネ騎士団の駐屯所に居たサリエットに、顔を隠して声色を巧く変え、少女を預けた。

私「大通りで拘束されている男たちが、この子を監禁していました」

サリエット「貴方の名前は?」

私「名乗る程の者ではありません」

サリエット「アートルムだろ? アートルム何やってるんだ?」

 私は急いで裏路地に隠れた。それから、何度か場所を変えながらも、私は何時間もかけて夜闇が降りて来る事を待った。

 紅い空も海の先に押し込まれ、星々が転々と独立して輝き、夜空が街を悪人たちの餌場に変えてしまった。出来るなら、その悪人たちを捕らえたいが、今の目的は違う。アルに会う事だ。

 城は国の中央にある、そして囲う壁がある。

 影に潜みながら、なんとかアルの部屋のベランダに着いた。ガラスドアから幽かに中が見え、ベッドでアルが横になっている。

 ガラスのドアを、割らない様にノックする。三回ほど繰り返すと、アルが気づいた。フードを下げ、顔を見せる。アルがドアを開け、対話する。

私「…知っているかもしれないが、天帝の下で働く事になった。だから指名手配も無くなる…。その…、色々と迷惑を掛けて、ごめんなさい」

 アルは私をビンタした。

アミアブル「どうして戻って来たの! 指名手配が無くなってからでもいいじゃないか!」

私「馬鹿々々しいかもしれないが、会えると思うと居ても立っても居られなくて…」

 アルは少し考えて、

アミアブル「じゃあ…これからは私とずっと居てくれ!」

私「勿論だ」

 そう云うと、アルは私を引っ張ってベッドに行った。

アミアブル「じゃあ…その愛が本当か、確かめるからな…」

 私たちは口づけをした。

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