第3話 穢れた手

俺の仕事が忙しくなり、暫く会えていなかった奈津子と久しぶりに再会することに。

「お待たせ〜!」季節が変わり、本格的に寒くなり始めコートとマフラーをした奈津子が元気よく手を振ってきた。

 あれから奈津子は会社を辞め、多額の慰謝料をぶんどって今は次の仕事が見つかるまで休職しているという。


「ありがとう!あの時相談に乗ってくれたお陰で決断できたよ。」

「そうか。よかったな。」

俺は大して何もしていないが、まぁ役に立ったのなら良かった。

「あのね…本当に大好き。早く彼女になりたいな。」

「……うん。まぁ、気が向いたらな。」

「なんなのそれ〜!(笑)」


奈津子は馬鹿だけど、いざという時の打たれ強さには感心する。

俺がしたアドバイスなんて具体的なもんじゃないのに、

自分で調べ、法に則って問題を解決する。

本当は忍耐強く賢いのにその能力を表に出すことなくいつも無邪気に振る舞うので

周りから舐められてしまうのだろう。

 奈津子を理解ってあげられるのは現在、俺一人しかいない。

その役目がこんな屑を具現化したような男でいいのかは甚だ疑問だが

セフレといえど、力になれることがあるなら支えてあげたいなぁと思った。


俺達の関係が始まってから半年が経った頃。

対戦前に始まるいつもの他愛ない雑談をしていた時のことだった。

「最近私P始めてさ〜。」

「P?プロデューサーか?」

「いやパパ活(笑)。今まで都心から遠かったから慰謝料で都心に近い新しい家に引っ越したら

想定してたより荷物が多くて、引越し代だけでだいぶ飛んじゃって…

新しい仕事探すまでの間パパに支援してもらおうかなって(笑)」

「ふーん…そうなんだ。それって安全なのか?本当にお茶飲むだけで稼げるの?」

「え?普通にヤッてるよ(笑)そうでもしないと稼げないよ〜」

…………


「まさかこんな楽に稼げると思わなかったの!前の職場みたいにいじめられたり無視されるより全然楽。股開くだけでいいからね〜。

とっととあんな会社辞めちゃって正解だったな。じゃ、始めよ〜よ。」

奈津子が手を握ろうとした瞬間。俺はバッ!と勢いよく振り払った。


「汚い手で触るな!この売女が!」

「……?えっ、何?どうしたの?」

「他の男とヤッたんだろ?よくそんな手で俺を触れるな?」

「……ん?だって私達付き合ってないよね?」

「付き合ってるとか付き合ってないとか関係ねぇよ。女が、そうやって簡単に誰にでも股を開くことが汚ぇっつってんだよ!」

「ん?あなたも色んな女と寝たいって言ってたよね…?それと何が違うの?」

「男と女は違うんだよ!男なんてただの排泄行為じゃないか。女が好きでもない男に股を開くのはどうなんだよ!」


____長い沈黙。どうしてこんなことを言ってしまったのか自分でも分からなかった。

「…ごめん。取り乱しちまって。今日はもう帰るわ。」

自分でも分からない動揺を抱えたまま、帰路についた。

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