第2話 天真爛漫
待ち合わせ場所に居た奈津子はやけに嬉しそうだった。
「ねぇねぇ。近くにNUSHが出来たんだってー。一緒に行かない?」
「なんだそれ?」
「カラフルな石鹸やバスボムが売ってるお店なの。お風呂で可愛いバスボム使おうよー!」
……面倒臭い。早く用だけ済ませて帰りたいのに。
言われるがまま連れられた店内に入る。やけに香料の匂いが充満していて、頭がクラクラする。
「わぁ〜!色んな新商品があるよ!」目を輝かせる奈津子。
海外のお菓子のような見た目のバスボムを手にして喜んでいる。
男はこういったものに興味がないので良さが分からないが、
これも関係性の維持の為、〝必要なタスク〟なのである。
商品を購入し、そのままホテルへ直行。
しばらくベッドに横たわり、早く事に及びたいなぁと寝そべっていると
奈津子が俺の手を引き、バスルームへ連れて行った。
湯船に張ったお湯にさっき買ったバスボムを入れる。
シュワシュワと弾け、湯船が一気に深海のような青碧に染まった。
「じゃあ一緒に入ろっか!」
子供のようにはしゃぐ奈津子。
よく分からんが、これが楽しいらしい。仕方ないので俺も演技をする。
「いい匂いだね!奈津子と同じ香りがする。」
「そう?普段から使ってるからかな?
このお店のバスボムは色んな香りがあって、これはお肌にいいやつなの!」
ふーん…。ま、ただの入浴剤でこれだけラインナップを揃えるのは企業努力だなぁ。
人気店である理由はこういう所なんだろうな。
なんてことを考えながら浴室を後にし、ベッドで恒例行事を行った。
「ふぅ……。」「気持ちよかったね。」
「あぁ…。」目的を達成し、いつものように眠くなっていると突然奈津子が真剣な顔つきで語りだした。
「実は私、今の仕事を辞めようと思うの。」
「なんで?」
「…聞いてくれる?誰にも相談出来なくて…。
話せる相手はあなたくらいしか居ないの。」
只事ではない空気を感じたのでとりあえず起き上がった。
「私、仕事向いてないのかもしれない。
何度も同じミスを繰り返して上司から怒られるし、みんなの足を引っ張るから同僚からも嫌われて…。
私が挨拶しても無視されるし、給料も不当に減らされるの。
私、生きてていいのかなって…。」
「最初からミスばかりしてたのか?」
「ううん、最初は『君は仕事が出来るね!』って褒められてたの。
でもある日一度だけミスをしてから風向きが変わって…周りの態度が冷たくなって…
緊張で手が震えて正しくデータを入力できなくなったり、普段ならしないようなミスを繰り返すようになって…」
「それは奈津子のせいではなく周りのせいじゃねぇの?誰かに相談したのか?」
「それが…相談したところで『甘えだ』『しんどいのはみんな一緒だ』なんて言われちゃって
話にならないんだよね…。だからあなたに相談したの。」
よくある職場いじめだ…社会人になってからもあるんだなぁ…。
「とりあえず、不当に給料を減らされるのは明らかな違法行為だから、労基に相談しよう。
そんで今の会社に通い続ける意思がないならもう辞めちゃってもいいと思う。」
「うん…ありがとう……ちょっと色々考えてみるね。」
帰り際も奈津子は「ありがとう」と頭を下げてきた。
いつも天真爛漫なアイツがこんな真剣な話をしてくるのは珍しい。
それから数ヶ月のことだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます