第4話本堂の新米です
煉の一撃後、隊列の空気が変わった。小林兄弟が真っ先に近づいてくる。
「兄貴!今の技すげえな!」
「どこのギルドのエースだよ?」
煉は淡々とハンマーの血糊を拭う。「ただの新人だ」
弟が親指を立てる「さすが実力者!謙虚だぜ!」
煉は本当に初心者だと主張したいが、千回のループで狂いかけた精神が、普通の会話に違和感を覚えていた。
「煉さん」兄が小声で聞く「この生死戦……生き残れる?」
煉が眉をひそめる。「厳しい」
自分なら五体のボスを倒せるが、彼らは恐怖で心臓麻痺する可能性もある。隊列に重い沈黙が流れる。
小林兄弟が肩を落とす中、田中が鼻で笑った。
:正解だ 他人を守る義務なんてない
:デカイ態度の田中がむかつく
:次も活躍できるか怪しい
団地内の舗装は崩れ、両側の廃ビルが巨人のように見下ろす。赤ずきんの歌声が廃墟に響く。
「パパは森で狼狩り
ママはパパをお皿に乗せ
子羊とわたし
羊はわたし わたしは羊
お婆ちゃんの家には狼
お婆ちゃん眠る お婆ちゃん喰う
猟師を連れて帰るよ
どっちが嘘 どっちが本当
猟師がわたしを わたしが猟師を」
橋本がジャケットの袖を噛む。正志のスマホがガタガタ震える。煉だけが平然と赤ずきんの三つ編みを観察していた。
この歌が全ての伏線。
千回の経験が脳裏を過る。SSS級の真価は真偽の婆婆や赤ずきんの身分の逆転、そして階段の間にいる解決不可能な逆さ吊りの女にある。
その逆さ吊りの女避けるしかなく、正面から立ち向かうことはできないルールだそうです。まさに理不尽だ。
山口は煉に寄り添っていた。彼の傍らにいると、不思議と安心感があった。
今回は橋本も制止しなかった。先程の狼蛛撃破が信頼を築いたようだ。煉は山口の接近を拒まず、相変わらず赤ずきんと並走する。
「煉さん……」山口の声が粟粒のように震える「さっきの……蜘蛛でしたよね?」
「ああ」
「人間の頭ほどの大きさが……」
「蜘蛛が苦手か?」
「ちょっと……でも大丈夫です、頑張ります」
山口は自らの弱さを恥じるように下唇を噛んだ。豆粒サイズの蜘蛛でも卒倒するほどの恐怖症だった。
煉が前方の七つ目の交差点を見据える。「それは厄介だ」
「え?」
「頭を下げろ」
「煉さん?」
「早く」
「は、はい」
「右足元を見ろ」
「紫色の花が……ある!」
弾幕が賑やかに流れる。
:イチャイチャシーン!?
:生死の境でロマンスかよ
:あの一撃またまぐれか?
山口がしゃがみ込む刹那、煉のハンマーが風を切る。天井から襲いかかる第二の狼蛛が地面に叩きつけられた。
「……え?」立ち上がった山口の髪の毛に黒い体液が飛び散る。
煉はハンマーを肩に担ぎながら嗤った。「摘まなかったのか」
過去千回のループで植木を根こそぎ抜いた破壊魔が、意外そうに眉を上げる。
「そのままがいいです」山口が頬を赤らめる
「そうか」
煉は肩をすくめて歩き出す。弾幕が激しく流れていた。
:今の一撃!
:完璧なタイミング!
:さっきのアンチは?出て来いよ!
:1089区の怪物新人
:上位ギルドは動くか?
実際、配信を監視するギルド関係者は少なくなかった。白塔ランキング上位の【朱雀】【青龍】などのスカウトが暗躍する。
白塔の世界では才能が全てだ。煉は謎解き・戦闘・精神安定性の三拍子が揃っている。更に貴重なのは孟闖(田中)への対応に見える「権威への反抗心の薄さ」だ。
開始から1時間。二度の戦闘で才能を露呈した煉に、早くも動き出す勢力が現れる。
【鳴雀ギルド】の金色の弾幕が画面を横切る。
『プレイーヤ【煉】へ。当ギルドより【銀の契約書】を提示します』
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