第3話高危新米


「てめえ何すんだよ!3Sなんてどうクリアするつもりだ!」


スーツ姿の田中とフード付きパーカーの歩美が仲裁に入る。


「落ち着け!皆で知恵を出し合えば」顧が両手を広げる。


「そうそう」正次が頷きかけた途端、ふと首を傾げた「でも3Sって何?」


「……」顧の喉仏が上下した。


煉は山本に襟首をつかまれながら咳き込んだ。「武器選びの時間だぜ」


赤ずきんが編み込み髪を揺らす。「お母さんが言ってたわ。幸せ団地には悪い人がいっぱいだから、武器を選んでね」


十人の視線がロッカーに集中する。山本が煉をぐいと押しのけやった。


「お前は最後だ」


煉は肩をすくめて順番待ち。誰も選ばないと分かっているピンクの空気入りハンマーが、隅でひっそり光っている。


武器を選ぶ過程で、彼らは互いに名前を交換した。山口、OLの橋本、大学生の正次、サラリーマンの田村、暴力的な田中。小林兄弟と名乗らない二人組。


武器選びは意外と平和だった。皆が死を覚悟しているせいか、譲り合いの精神が働く。最後に残ったハンマーを煉がひょいと拾い上げる。


:新人最悪だな せめて斧なら……


:この煉ってNPCなんじゃ?


:高危個体かも……


弾幕が炸裂する中、


「煉さんって高危NPC?」正次が無邪気に聞く。


場の空気が凍りつく。枯れ木の鴉の赤いレンズがギラリと光った。


煉はじっと正次を見つめ、ゆっくり口を開いた。


「白塔って何だ?」


「……」


正次がブレスレットを覗き込む。「みんな『天才だ』って書いてる」


「褒め言葉だ 謙虚に受け止めろ」


煉がピンクのハンマーを肩に担ぐと、キューッと滑稽な音が響いた。田村が重い斧を構える中、異様な光景が広がる。


「交換しましょうか?」山口が震える声で言う。


「結構だ」煉はハンマーの星マークを撫でた「これが運命の出会いさ」


赤ずきんがマントを翻す。幸福団地のゲートが軋みながら開いた。


九人のチームは親しみがないため、進行が緩やかで、隊形も整っていないた。


:知らない人同士でチームを組むなら、真ん中が一番いいね。


:背の高い奴、本当に大胆だな、先頭に立つのか?


:NPCと並走ってどういう戦術!?


煉がNPCに並走する奇妙な隊列に、弾幕が騒然となる。


弾幕の助言は正しかった。NPCに密着するのは危険だ。だが千回目の煉にとって、青白い顔の赤ずきんこそが唯一の「馴染み」だった。


「赤さん、お歳いくつ?」


「わからないわ」


「赤さん、夕飯は?」


「わからないわ」


「赤さん、狼婆さんって名字が狼なの?」


「わからないわ」


小林兄弟が段ボールの陰で耳をそばだてる。煉と赤ずきんの奇妙な会話が続いていた。


「煉さん」山口がそっと近づく「怖くないですか?」


煉は千回殺し合った仲だと心で呟き、にやりと笑った。「可愛い子じゃないか」


赤ずきんが突然歯茎を見せて笑う。乳歯が鋭く尖っている。橋本が山口の腕を引く。


「変な男に近づくんじゃない」


「でも煉さんは……」


「信用できる根拠が?」


会話は途切れた。正次が煉のハンマーを指さす。


「これカッコいい!」


「デザイン性重視だ」


「でも戦えな――」


「若造が知るか」煉がハンマーをクルクル回す「千回も同じことしてりゃ、実用性よりエンタメだ」


「哲学!」


「わかるか?」


「ぜんぜん」


「大学生のくせに」煉が呆れ顔「どうやって合格した」


「クラスで生き残ったから」正次が笑で「入試免除で」


煉の眉がピクリと動く。二つ目の交差点を曲がる瞬間、積まれた段ボールがガサリと音を立てた。


人面狼蛛の八本足がコンクリートを蹴る。まさに正次が身振り手振りで喋りながら背中を晒した瞬間――


煉の右手が閃いた。


パン!


正次の頬に赤い掌形が浮かび上がる。同時に左手のハンマーが強化モードに切り替わり、粉星模様が深紅に輝く。


ズバッ!


ハンマー先端が狼蛛の顔面を貫通。黒い体液が正次のジャージに飛び散る。


:うわっ!?


:あのハンマー本物だったのか!?


:1089区に隠れプロいた!?


弾幕が沸騰する中、煉はハンマーをクルリと回収。正次が舗道の縁石に転がりながら指を震わせる。


「煉さん……ビンタされた……」


「緊急避難だ」


煉が淡々と答える。橋本が血の付いた斧を構えつつ呟いた。


「今の……新人の動き?」


小林兄弟が段ボール陰で息を殺す。赤ずきんの三つ編みが不自然に揺れ、煉の背中に触れそうになる。


「お兄ちゃん、すごいわね」


「赤さんもやる?」煉が血糊のついたハンマーを差し出す。


「いらないわ」

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