第5話

――もう、耐えられない


そう思った矢先に、私の救世主はいつも登場する


ジャー…

バタン


クマさんとの無音の空間に似つかわしくない音で私は我に返った


顔を上げる瞬間にはもう彼女の温かい胸の中にくるまれていたから


「あきらぁ~!来てくれてありがとうっ」


グレーのスエットに、ネコのキャラクターのパーカーを着た香織さん

オフモードの彼女は自慢の金髪の前髪だけ結んでちょんまげみたいにしている


かわいいものが好きな香織さん


そんな香織さんが一番かわいいと私はずっと思っている


彼女の温かい胸の中で、私の緊張の糸はすっと引いて、ここに来て初めて表情が和らいだのが自分でもわかった


「ちょっと桜井さん、まさか、あきらのこといじめてないでしょうね?」


『…』


「…いじめてねえ」


「あっそう、あきら、ほら靴脱いで入って!」


『……う…ん』


長い廊下を香織さんに手を引かれて進むとき、また一瞬クマさんと目が合った気がした


香織さんから聞いていた“さくらいさん”っていうのはクマさんに間違いない


彼女から聞いていた人物像とは少し違ったから


もっと冷たいこわい人だと勝手に思っていたけど、違ったようだ

きっと自分と一緒で口下手なのだ


私はクマさんのことをそう分析した

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