第5話

ああ…もうっ…。

何でここが会社なのよっ。

今すぐ彼の胸の中に飛び込んで、またさっきのように強く抱きしめてほしい…。



「はいはい、ストーップ! 君たち、ここどこだかわかってますかー? 会社ですよー。か・い・しゃっ!!」



甘い空気が漂う私と彼の空間を切り裂くように、有坂さんが私と彼の間に入ってきた。



「…そうだったな」


「マージで、親父さんにキレられるぞっ」


「ああ、わかっている」



彼は有坂さんの言葉に頷きながら、スーツの胸ポケットから手帳を取り出し、素早くペンを走らせた。


そのメモを一枚破ると、私に手渡した。



「わたしの私用の番号だ。もう、受け取ってくれるな?」



あのときは拒否した電話番号。



『…ええ、もちろんよ』



受け取らない理由はもうない。

私は彼の手から電話番号を受け取った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る