第4話

それが嬉しくて…少し寂しくて。

思ったことがぽろっとこぼれた。



『…もう、行っちゃうの?』



せっかく会えたのに…。


仕事に戻らなきゃいけないってわかってるけど、もう少しだけ彼の側にいたかった。


せっかく両思いになれたのだから…。



「…そんな顔をしないでくれ」



私の向けた視線に、彼がはあっと小さくため息をもらした。



『ごめんなさい…私、わがままなこと言ったわね』



彼は重要なポジションにいるのに…。

私って本当に子供ね…。

ときどき、自分でも嫌になる。



「そうじゃない」


『…?』



私の言葉を彼がすぐに否定した。



「余計戻りたくなくなるだろう、そんなこと…そんな顔で言われたら」


『……えっ』



真っ直ぐな視線で私を見下ろす彼の瞳は、困惑していた。

困っているはずなのに、どこか嬉しそうな彼のその顔を見ていたら、胸の奥がぎゅうっと苦しくなった。

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