第16話

でも、まぁそれは2人の間のことであって、わたしには関係の無いことだし。



それよりわたしは、仄かに恋心を抱いていた蒼井さんが紗由理の彼だったことに、少なからずショックを受けていた。



紗由理が相手なら勝ち目無い。

お嬢様育ちながら甘えた考えはなく、自分の足でしっかりと歩いてきた人間だ。



それでいて性格は可愛らしくて、見た目は美人。同性から見ても完璧で文句の付け所がない。



.....ヤケ酒かな?

うん、今夜は淡い失恋にヤケ酒だ、ちょっと奮発して高いお酒を買って帰ろう。



そんなことを考えながら駅の階段を登っていると、後ろから声を掛けられた。




「麻生さん!」



「.....蒼井さん?」



「あぁ、良かった。追い着いた。

ねぇ、せっかくだから飲みに行かない?あの時のお礼もしたいし」



あの時のお礼....?



「酷いな、忘れたの?ハンコ!課長の代理でハンコを押してくれたでしょ?」



蒼井さんは手の平に、ポンっとハンコを押すジェスチャーをして笑った。



.....覚えてたんだ。

覚えていて、彼は「はじめまして」と言ったんだ。

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