第36話

すっかり泣き止んだ女の子は、嬉しそうな声をあげて持っていたフィギュアを、ほまれに見せている。


……これ、どこかで見たことがあるような。


そう思った時だった。




「沙良!」




男性の大きな声に、女の子の動きがぴたっと止まる。


それから、パパ!と叫んだ彼女は、ほまれと私の間をすり抜けるようにして、男性の元へ走って行った。




「あ、良かった。お父さん見つかったんだ」




微笑ましい父娘の再会を目にして、ほまれはニッコリと笑う。


けれど、私は正直言って心穏やかではいられなかった。沙良ちゃんを抱き上げた男性は、私の姿を認めた瞬間、少し驚いた表情を見せた。


胸がズキンと、痛む。


最悪、不運にもほどがある。


よりによって、りゅうじさんの子供だなんて。




「……柊木?」


「こんにちは」


「偶然だな。沙良を保護してくれたのか?ありがとう」


「いえ、相手をしていたのは、彼の方ですよ」




ほまれの方で手で示すと、りゅうじさんは軽く微笑んで会釈をした。職場では一切見せない、父親の顔。


ブルーのネルシャツにジーンズといったカジュアルな服装で、仕事人間のオーラはゼロ。これがあの、時枝隆司かと、確認したくなるくらい別人だ。




「世話になったね。ありがとう」


「そんな、お礼を言われるほどのことはしてないですよ」




ニッコリと笑いながらりゅうじさんと会話をするほまれは、この人誰?と、目で聞いてくる。


だけど、私はふたりを紹介する余裕なんて少しもなく、ただただ、この場から消え去りたいと願うばかりだった。

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