第32話

「あいは気にしてないの?」


「してないしてない」


「……怖くない?」


「そりゃあ、多少は気持ち悪いって思うけど、大丈夫だよ」


「でも、」




不安げな瞳が、こちらに重なる。


さっきまであんなに嬉しそうにしていたのに、ほまれはシュンと肩を落として何か言いたそうに、それでいて何を言えば良いのか分からない顔をしていた。


本当に、可愛い子。


世の中に居る全ての人が、ほまれのようだったら、平和なのにな。そんなことをふと思った。




「ねぇ、そんなことより早くデートに行こうよ」


「あい」


「"時間が勿体ない"って言ったのは、誰だっけ?私、結構楽しみにしてるんだけど」


「……分かった。行こ!」




ラジオパーソナリティーの仕事は、やる気と根性だけでは、どうにもならないことがある。


限られた時間の枠から、自分の番組を勝ち取るのに、先輩も後輩も関係ない。


嫉妬したり、嫉妬されたり、何気ない言葉で相手を傷つけてしまったり、傷ついたり。


リスナーからお怒りのメールだって、一体いくつ貰ったか覚えてない。もしかしたら、恨みを買ってるかもしれない。


だけど、そんなことをいちいち気にしていたら、やってられない。


それこそ、気にして悩んでいる時間が勿体ないと思う。

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