第23話

「お疲れさまです」


「あぁ、お疲れさん」




むかつくくらい、今日も良い男。


緩めたネクタイの間から、焼けた肌が覗いている。


テーブル席の1つを陣取って、お酒片手にタブレットを睨み付けている時枝ディレクターは、私の方にチラリと一瞬視線を向けただけで、素っ気なく答えた。


愛想笑いも出来ないのか……!




「ここに来ても仕事ですか」


「いや」


「じゃぁ、何を?」


「なぁ、あい。これとこれ、どっちが良いと思うか?」


「え?」




不意に差し出されたタブレットの画面には、某アニメのフィギュア。


はっきり言って、どちらも違いがよく分からないソレを彼は真剣な目で見つめては、何やらブツブツ呟いている。


心底イラついた私は、適当に指さした。




「こっちが良いと思いますよ」


「こっちかぁ……でも、俺はもうひとつの方が良いと思ったんだよなぁ」


「じゃぁ、そっちにすればいいじゃないですか」




あーあ、面倒くさい。


たかだかフィギュア1つ選ぶのと、可愛い部下が仕事を終えた後に会いに来たことと、この人の中ではどっちが大事なんだろう?


……なんて、比べてみなくても、すぐに分かる。


私にとって自分の恋愛マニュアルにハマらない男、"約1名"が、りゅうじさんなのだ。

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