第5話

* * *




「おはようございます」


「おはようー……、もう夕方だけどね」




オフィスのエントランスをくぐりながら、知った顔と挨拶を交わす。


朝でも昼でも夜中であっても、掛ける言葉は「おはようございます」。この挨拶の仕方は飲食店のようで初めこそ違和感があったが、今ではだいぶ慣れた。


受付を通り抜けてエレベーターホールに向かう途中、あいちゃーん!と私の名前を呼ぶ声が聞こえ後ろを振り向く。


同僚の日野(ヒノ)さんだ。




「日野さん、顔が死んでますよ」


「そりゃ徹夜明けだよ?死んだようにもなるって。あいちゃんもあと10ほど歳取ったらこうなるからね、あはははは」


「肝に銘じまーす」




ここで働く人たちは、不規則な勤務時間のせいでハイテンションかローテンションのどちらかである。


日野さんは前者でいることが多く、バナナをいつも手に持っている。鎮静効果があるとか、ないとか。


こざっぱりと短く刈り上げた髪に指を入れて寝癖を直した彼は、急に思い出したかのように手を叩いた。




「それはそーと!あいちゃんの例のコーナー、反響出てきたね」


「本当ですか?」


「マジマジ、メールがじゃんじゃか届いているよ」


「やったぁ」


「ディレクターも褒めてたよ」

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