第16話

耳の奥から背中にかけて、ぞくりとした悪寒が走り抜ける。



凌の吐き出す息が生温いとか、アルコールの匂いが吐きそうとか、よく見れば私服で今日は客としてここに居るんだとか……そんな思考よりも先に、ただ嫌悪感を感じた。




「ちょっと、トイレに行ってくる」




やけに重い凌の腕を押しのけ、席を立つ。なっちの方へ視線を向けたけど、彼女は隣に座っている男の子との話に夢中のご様子。



わたしがここに戻って来なくても、きっと気にも留めないだろうな、と思いながらフロアの外にある化粧室へ向かった。




激しい音楽が流れるフロア内とは違い、一歩外に出ると数メートル離れたところで話している声もよく聞こえる。



けばけばしい赤い色の壁伝いに奥へ進むと、女の子たちの笑い声が聞こえた。




『ねぇ、知ってた?凌くんと由香里ちゃんの話~』


『知ってる!知ってる!由香里ちゃんが猛アタックしたんだよね』


『凌くんって好きな子が居るって言ってなかった?』


『あ~聞いたことある!確かレナ?レミ?黒髪で結構可愛い子だよね?』


『そうそう!でもあの子、なんか嫌い』


『あ~、分かる。自分は可愛いんですって、周りの子を見下しているよね、すっごく冷めた目をしているもん』




……そりゃどうも。


レナでもレミでもないけど、彼女たちが言っているのは、多分わたしのこと。


黒髪で冷めた目をしている奴なんか、このクラブにわたし以外に居ないから。

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