第16話
耳の奥から背中にかけて、ぞくりとした悪寒が走り抜ける。
凌の吐き出す息が生温いとか、アルコールの匂いが吐きそうとか、よく見れば私服で今日は客としてここに居るんだとか……そんな思考よりも先に、ただ嫌悪感を感じた。
「ちょっと、トイレに行ってくる」
やけに重い凌の腕を押しのけ、席を立つ。なっちの方へ視線を向けたけど、彼女は隣に座っている男の子との話に夢中のご様子。
わたしがここに戻って来なくても、きっと気にも留めないだろうな、と思いながらフロアの外にある化粧室へ向かった。
激しい音楽が流れるフロア内とは違い、一歩外に出ると数メートル離れたところで話している声もよく聞こえる。
けばけばしい赤い色の壁伝いに奥へ進むと、女の子たちの笑い声が聞こえた。
『ねぇ、知ってた?凌くんと由香里ちゃんの話~』
『知ってる!知ってる!由香里ちゃんが猛アタックしたんだよね』
『凌くんって好きな子が居るって言ってなかった?』
『あ~聞いたことある!確かレナ?レミ?黒髪で結構可愛い子だよね?』
『そうそう!でもあの子、なんか嫌い』
『あ~、分かる。自分は可愛いんですって、周りの子を見下しているよね、すっごく冷めた目をしているもん』
……そりゃどうも。
レナでもレミでもないけど、彼女たちが言っているのは、多分わたしのこと。
黒髪で冷めた目をしている奴なんか、このクラブにわたし以外に居ないから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます