第11話
それでも、少しほっとする。
あいつが出掛けたとなると、気配を察しながら家の中を歩く必要もないし、母の甲高い声を聞かなくて済む。
大音量で音楽を掛けても、冷蔵庫の中身を漁り好きなものを食べても、ベッドの上で飛び跳ねても自由だ。
……なんて、そんなことはしないけど。
あいつの不機嫌そうな顔と、母のびくついた表情を見なくて済むのが1番嬉しい。
『何かあったら相談してね』
制服のジャケットを脱ぎ捨て、ネクタイを外す。
『親友なんだから、アドバイスくらいは出来るよ』
クローゼットの中を開け、地味な服を選び着替える。それから、奥に隠しておいた紙袋を取り出す。
『プリクラ撮りたい!カラオケも行こう』
スクールバックの中身を塾用の鞄に詰め替える。それから机の引き出しを開け、ヘアアイロンと化粧道具も鞄に入れる。
ふと、母の困ったようで泣きそうな顔が頭の中に浮かび、"お父さんの機嫌を損ねないで"という言葉が聞こえた気がした。
「くだらない」
親友とかいう、美和の笑顔も
母親とかいう、顔色伺いするあの人も、
父親とかいう、最低なあいつも、
冷めた目つきでわたしを見据える、先生も。
全てが鬱陶しくて、くだらない――――。
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