第6話

「あれ?あそこに居るのってさ、綾戸先生じゃない?」




不意に美和がクラブハウスを指差す。

そこには、サッカー部の男子と話をしている先生が居た。




「男子には人気あるんだよねー」


「そうだね」


「女子に嫌われるのは、早かったくせにね」


「隠れファンは多いみたいよ」


「うえー、まさか澪もファンとか言わないよね?」




美和はわざとらしく舌を出して、吐く真似をする。


彼女がどうしてここまで先生を嫌うのか分からないけど、"右ならえ"をするのは、友達ごっこの基本だ。




「まさか、好きじゃないよ。むしろ嫌い」


「だよね?良かったー。あんな冷徹教師、澪が好きになるはずないもんね」


「うん」


「でも、もしかしたら好きなのかな?って思ったんだよ」


「え……?」


「だって、澪ってさ、先生に定期的に呼び出されてるじゃん?それって何かあるのかな?って疑っちゃう」




美和は怪しんだ視線を一瞬だけわたしへと送った後、風で乱れた前髪を整えている。




「先生、さようなら!」




"嫌い"なんて言いながらも、先生の前を通り過ぎる時は満面の笑顔。



強かなのは、むしろ美和の方かもしれない。




「一応副担だし受験のこととか、ほら美化委員の担当じゃん?そのこととかだよ」


「そう?なら良かった。あんな顔が良いだけの教師、さっさと首になっちゃえばいいのにね」

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