芸風
白川津 中々
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「さて、困ったな」
思考科学者である瑞穂三郎は悩んでいた。連載しているコラムのネタが出ないのだ。
瑞穂は大学を出てから大手開発系メーカーに就職。在職中に執筆した思考科学の全てが大ヒットし、現在は思考科学者の肩書でコラムニスト、コメンテーターとして認知されている。彼の良くも悪くも自分本位な言動は、やはり良くも悪くも話題となり、過激とも取れる内容は、これも、良くも悪くも話題にあがるためエンタメとしての需要があった。科学者を自称しながら科学的根拠に乏しいうえ、そもそも何も研究していないではないかという批判はあるものの、彼は食いっぱぐれずにすんでいたのである。
ところが最近彼はスランプだった。何を言うにも書くにも過去の自分がチラついて物申す言葉に詰まるのだ。そもそも芸能などあまり興味がないどころか気に入らないまである。殊更、芸人が行う"イジリ"や"身内ネタ"と呼ばれるものに関しては嫌悪感を抱いていた。この辺りは瑞穂個人の屈辱的経験が起因しているのだが名誉のために詳細は伏せる。ともかくして、瑞穂は詳しくもなく好きでもない芸能関係の仕事に携わり日銭を稼いでいた。それ故にネタ切れは死活問題。捻り出さなくてはいけない。いつも通りの、良くも悪くも話題となる文章を。
「金のためとはいえ、下等な仕事だよこれは」
自らの仕事を蔑し貶める。本来彼が求めているのは独自理論を立証し世界に認識される事である。瑞穂は論も根拠もちぐはぐな思考科学を正しいと疑わず、それを認めない国に対して恨みを抱いていた。アメリカに生まれていたら名だたるサイエンティストと同列に扱われ歴史に名を残していたのにと真剣に信じ込んでいる。これはコンプレックに他ならないが、このコンプレックが、瑞穂に閃きを与えた。
「アメリカと日本の比較をコラムにしてやろう」
そこからが早かった。積年の無念怨念がキーボードを打つ指に宿り掲載分は完了。それどころか筆が乗り四号先まで書き上げてしまい全て送信。担当から「これですよこれ」との太鼓判が押され雑誌が発売されると炎上に近い勢いで話題となってメディア露出が増えていった。以降、アメリカを学べが瑞穂の芸風となる。
肝心の思考科学については依然、似非科学の蔑称を拭えないままである。
芸風 白川津 中々 @taka1212384
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