#6 SCP-527はどんな存在なのか

昼行灯

第1話

#SCP-527


 SCP財団が所有しているサイト-19には人の形をしたSCPが収容されている。

 性別は男性。身長は167cm。正確は物怖じしないはっきりしているタイプだ。

 財団に協力的であり、収容されているが知性もあるためにオブジェクトクラスはEuclid。一般的なSCPによく付与されるクラスに分類されている。


 生物学的観点で言えば彼は普通の男性である。接触した人の精神を狂わせたり、会話すると思考を乗っ取られるというような感染も起こらない。

 人を害する異常な特質もなければ、人に益をもたらす性質も持ち合わせていない、至って普通の小柄な男性である。


 ただし頭部が魚であることを除けば。


 SCP-527は人の体をしているが頭部は魚──ゴールデンバーブ──の形をしている。

 財団に収容されている理由は、この一点のみにあった。


 ちなみにゴールデンバーブはコイ科に属する熱帯魚だ。中国南西部や台湾に生息するグリーンバルブの品種改良が起源と考えられている。

 日本からすると外来種になる熱帯魚の頭を人の頭とすげ替えたのがSCP-527だ。


 現実の人魚はお伽噺よりも生臭い形状をしていたようである。

 いや、この場合は魚人と言うべきなのだろうか。


 SCP-527はただ頭が魚な「だけ」の普通の男性である。

 その証拠として人の言葉を話す。知性もあり会話も可能だ。頭部の形状は魚と同一だが頭内部の機能は人と同一だ。魚ではない。人魚のように歌うことも可能だろう。


 ただしSCP-527の歌を聞いても夢物語の人魚のように無条件で魅入られることはない。人を魅了できるかどうかは彼の歌唱力にかかっている。彼の肉を食べても、おそらく不老不死にはならない。


 エラ呼吸もできない。他の魚と意思疎通もできない。水中に長く潜ればきっと溺れてしまう。

 もしも彼が溺れたら見た目で人工呼吸を躊躇される不利益はあっても、他の人に不利益を及ぼすような異常性もない。


 人の頭部が魚な「だけ」の至って普通の男性なのだから魚の人よりも人の魚、つまり人魚呼ぶのが相応しいのではないだろうか。


 もっとも、人魚であろうと魚人であろうと財団からすれば異常な存在であることは変わらない。

 そんな彼の左足の裏には刺青がある。


「リトル・ミスターズの一員、ミスター・おさかな byワンダーテインメント博士」


 この刺青は、SCP-527が自らの意思で彫ったわけではない。物心ついた時には彫られていた。

 文字数的に足の裏いっぱいいっぱいに彫られているであろうその内容を信じるならば、SCP-527の本名はミスター・おさかな。

 リトル・ミスターズというグループの一員であり、ワンダーテインメント博士が海の母ならぬ産みの母になる。


 つまり、創られたSCPだ。


 一体どのような意図をもってワンダーテインメント博士は、SCP-527は創作したのか。

 それは謎である。


 そもそもワンダーテインメント博士が謎の存在だ。

 博士を名乗っているにも関わらず、一切その姿は現さない。

 個人なのか企業なのか、それとも企業を運営している社長なのか。もしかすると博士自身もSCPなのかもしれない。


 財団がどれだけ調べても影も形も掴めなかった。博士に関する全てのことが闇の中だ。

 ただ博士は資本主義的な思考を持ち、博士が創作するSCPには子供向けのおもちゃを模している共通点があった。

 人を楽しませるのが好きらしく、比較的無害なSCPを作る傾向がある。そしてご丁寧に説明書や注意書きも用意したりする。突拍子もないSCPを作るわりには常識的な一面があった。


 子供は大人にはわからない笑いのツボがある。頭部が魚の人魚を作ったのも、子供を喜ばしたかったからかもしれない。

 しかし、大人にとってその笑いのツボは不可解なものである。SCP-527にインタビューした財団の博士も理解不能で頭を抱えてしまった。当のSCP-527もどうしてこんな姿なのか知らないと言っている。


 おおよそ常人では計り知れない思考の持ち主なのだろう。

 ただこの時のインタビューでリトル・ミスターズは、ワンダーテインメント博士の限定版コレクションの総称だと判明した。


 SCP-527は12番目のコレクションで全部で20種類。

 つまり、ミスター・おさかなのような存在があと19いることになる。


 このようなSCPを次々に創作するワンダーテインメント博士とは一体何者なのか。

 そしてその本当の目的は何なのか。


 それを知るために財団はアマゾンの奥地に……向かわなかった。

 

 

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