3-02
ショーが終わって、係の人があたし達にタオルを渡してくれた。
「えらい目遭ったな…」
「でも楽しかったね」
あたしがそう言うと、神城はふっと笑った。
「セイウチも活躍してたしな?」
「あっ、セイウチ可愛かったね」
「俺のことバカにすんのやめたのか?」
「セイウチは可愛かったけど神城は全然かわいげなーい!」
「本当うるせえなお前は…」
神城は、あたしの髪の毛のタオルを、両手で強めにゴシゴシと拭いた。
その様子を、係の人がニコニコと見てる。
「なにか…?」
「いえ、微笑ましいですね。お似合いです」
「お似合いじゃないです!!」
神城とハモってしまった。
見た目だけは超お似合いだと思うけどね…。
だいぶ乾いたので係の人にタオルを返した。
見るところもなくなったので、スーベニアショップを通って帰る。
ここを通らないと出口に出られない設計だからね。
近場だし別にお土産を買う人もいないので素通りしよう。
でも、お店を通ってたら、神城が足を止めた。
「どうしたの?」
「このハリセンボン、まじお前にそっくりじゃね?」
小さいハリセンボンのキーホルダー。
全身トゲトゲでぷくっと丸く可愛い感じにデフォルメされてる。
「記念に買うか~」
「だからあたしはイルカだって」
「イルカよりぜってーこっちの方がお前らしいだろ」
そう言って本当にレジに買いに行った。
もー…。
確かにハリセンボンも可愛いけど、可愛いの種類が違うよね!
だったらあたしも…。
あたしは、キョロキョロと店内を見回す。
そして、「あった!」と、セイウチのぬいぐるみを見つけてきた。
ぶよぶよでデフォルメされてて可愛い。
「神城はこれね?」
レジから戻ってきた神城に見せた。
「ほんといい加減にしろよ…」
「可愛いからあたしもこれ買っちゃうもんねー」
あたしもぬいぐるみを購入。
ノリで買っちゃったけど、なんかちょっとウキウキしてる。
水族館を後にして、電車に乗った。
買ったぬいぐるみはしっかり抱えている。
今日は久しぶりに楽しかったから、こうして神城とお別れするの寂しいな…。
電車内では無言で。
ふと隣の神城を見ると寝ていた。
なんだかその寝顔が可愛いと思っちゃう…。
こっそりと、持っていたスマホで神城の寝顔を横から撮った。
かすかにしたカシャッという音で、神城がゆっくり目を開けた。
「…今なんかしたか?」
「何のこと? 電車の音じゃない?」
「あっそ…」
危なかった…。
撮ってるのバレたら、なに言われるか…。
そして、最寄り駅に着いた。
神城はここから歩いて数分らしいけど、あたしはここから更にバスに乗る。
楽しかった時間もここまでだ…。
別に、神城のことなんてどうでもいいけどさ…。
でも楽しかったもん…。
「じゃあね」
「ん、気をつけろよ」
背を向けて歩き出そうとした。
そのとき…。
「あ、お兄じゃん! え、彼女連れ?」
元気な声がした。
声の方を向くと、キャップにマスクをした華奢な女の子がこっちに軽く手を振ってる。
顔はよく見えない。
ていうか、『お兄』って言った…?
ってことは…。
「お前ここで何やってんだよ、
神城が言った。
やっぱりアイドルの神城ゆずだ!
ゆずちゃんが、こっちに近づいてきた。
そして、マスク越しでも分かる100点満点の笑顔をあたしに向ける。
「はじめまして~」
「は、じめまして…」
「お兄の彼女? あたし、妹の柚子です」
「柚子…ちゃん」
「っていうかお姉さん、めちゃくちゃ可愛いね! お兄、そんな性格でこんな可愛い子とよく付き合えたね?」
何この子…。
初対面のあたしに対しても、底抜けに明るい…。
すっごい魅力的な子…。
でも、テレビで見るのと若干性格が違うような?
テレビでは、笑顔が可愛くて元気な感じではあるけど、余計なことは言わないようなイメージ。
当たり障りがない感じ?
とにかく、こんなぐいぐい来る感じではない。
柚子ちゃんの言葉に、神城はそっぽを向く。
「ほっとけ…。色々あんだよ」
「ふーん。彼女さん、お名前は?」
小さい顔にくりくりの目で少し首をかしげてあたしのことを見る柚子ちゃん。
さすが人気アイドルなだけあって、その仕草だけでめちゃくちゃ可愛い。
よく見ると神城ともどことなく似てる。
正直、テレビで見るよりこっちの方がずっと可愛い。
「杉谷くるみ…です」
「じゃあくるちゃんだね! なんかびっくりしてる? かわいいね!」
いつもだったら負けまいと瞬時に笑顔で挨拶するのに、柚子ちゃんを前にしたらなんだか急に素の自分って感じだ。
不思議な子…。
「ね、ちょうど良かった! さっきお菓子作ってみたんだけど食べに来てくれない? 大量にあるのに失敗しちゃった」
「お前失敗したモン人に食わせようとすんなよ…」
「うるさいなー。くるちゃんに聞いてるの。ね、いいでしょ?」
柚子ちゃんがあたしにまた笑顔を向けた。
生で見るアイドルスマイル、可愛すぎ…。
なんとなくその笑顔に押し切られるようにして、あたしは神城家まで引っ張られてしまった。
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