第2話 恋
「〜〜♪〜〜〜♪」
今日のわたしは浮かれている。これ以上ないくらいに!
スキップなんてしてみちゃったり!?
鼻歌歌ってみちゃったり!?
最後はくるっと1回転!
シュタッと着地!
「
「ママーなんか変な人いるー」
「こらっ見ちゃだめっ」
「ごはっ……」
すすすーっと素早く立ち去る親子。
まさか見られているなんて。
ああそういえばここ東京なんだわ。
そこら中に人がいるんだわ。
精神的ダメージを受けたけどまあいいでしょう……
でも浮かれたってしょうがないと思う。
だって好きな人に会いに行くんだもん!
わたしはこの春から東京の高校に進学した。
偏差値の高い高校で、元々中の下くらいのわたしの成績では到底無理だと担任の先生にも言われたけれど、私は合格を条件に両親から東京での一人暮らしを勝ち取った。
「高校生のうちから一人暮らしなんて」とか色々反対はされたけれど、わたしは決して意思を曲げなかった。お姉ちゃんが味方してくれたこともかなり大きい。
「お兄ちゃん驚いてくれるかなあ……」
自分で言うのもなんだけど、わたしはだいぶ美少女に育ったと思う。出るとこは出ているし、引っ込むところはちゃんと引っ込んでいる。
お風呂場で自分の体を見ると「へへ、ちょっとえっちくないですか〜??」とか言っちゃうくらいには。育成大成功だ。
自慢の長い黒髪はサロンで綺麗にしてもらったばかりだし、容姿もほぼ毎日男子に告白されるぐらいに磨いてきた。
それもこれもお兄ちゃんに好きになってもらうため!!
年齢差なんていくらでもひっくり返してみせる!歌に国境がないように愛にも国境はないのだ!
お兄ちゃんは絶対年の差とか気にするタイプだし、仮に気にしないとしても彼女にする子は可愛い子がいいに決まってるんだから!
それで中身も良いときたらそりゃもうお兄ちゃんだってほっとかない!……ほっとかないよね?
そんな自問自答(?)のようなことを繰り返しているうちに商店街を抜けて住宅街に入ってきた。
わたしの住んでいたところは地方でも田舎のほうだったから一件一件にスペースがあったけど、東京は家がぎゅっと詰まっててなんだかおしくらまんじゅうみたいだ。
「お兄ちゃん元気かなー?」
お兄ちゃんと呼んではいるものの実の兄とかそういうことではない。
お隣さん同士で、お兄ちゃんとお姉ちゃんが同級生だったので妹のわたしはよく遊んでもらっていた。
会うたびお菓子をくれたり、頭を撫でてくれたり、お買い物に付き合ってくれたり、遊びに連れていってくれたりしてくれた。
わたしが我儘を言うとお兄ちゃんは慌てたけど、「しょうがないなあ、今回だけだよ?」って優しく笑ってくれる笑顔が大好きだった。
もし、一つだけ不安があるとしたらそれは、メッセージのやり取りが1年も返信が返ってこないことだ。
怪我?病気?彼女?なんて頭をぐるぐる回しながらも受験勉強を最優先にして連絡は控えた。
合格が決まってからはメッセージを送ったり勇気を出して電話もしたりしたけど、どれも反応はなかった。
「どどどどどどどどうしよう……か、彼女とかできてたら……」
もし、もし、万が一、億が一、彼女がいたらわたしはどうなってしまうんだろう……はわわわわわわ
鬼に……なるやもしれない……やばっ吐きそう
そんなことを考えてるうちにお兄ちゃんの住んでいるアパートが視界に入った。
「メゾンドグレイル202号室……ここだっ」
カメラ付きインターホンを押そうとして留まる。スマホをインカメにして最終チェック。
深呼吸して、「よしっ」と気合いを入れてインターホンを押した。
ピンポーン ピンポーン
「あれ?まだ帰って来てないのかな?」
今の時刻は18時。
連絡を取り合っていた頃は確かお仕事は17時までって言ってたと思うけど……
ピンポーン ピンポーン
ピンポーン ピンポーン
「???」
不意にドアノブを回すとガチャリと音がして扉が開いた。施錠忘れ!危ないじゃん!
いいのかなー?うーーーーん、いっか!お兄ちゃんなら許してくれる!
「お、お邪魔しま〜す」
わたしは小声で挨拶しながら部屋に足を踏み入れた。
––––––––––わたしはこのときのこと、これからのことを一生忘れることはないだろう。
–––––––––––わたしはもっと考えるべきだったんだ。あの優しいお兄ちゃんが、1年間もメッセージを返してこなかった意味を。無言のSOSを。
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