忘れぬ想い

黒猫に不意に根底にある気持ちを言い当てられて焦った。


わたしは『逢いたい』人がいる。


黒猫は、

「逢いたい人がいるならこのあたいに食塩なしの鮭を一本渡しな!

昨今の猫はグルメで健康志向なのさ」


わたしは鮭一本はものすごく高価だけれど、それで『逢いたい』人に逢えるなら安いのか?



逢いたいと心から望んでいる人に逢えると思うとこの黒猫に出逢ったことは『奇跡』なのかもしれない。



黒猫は、

「逢いたい人に逢う勇気が出来たらまたここへ来るといい。鮭は絶対忘れるべからず」



と言って消えていった。



黒猫に遭遇したのに狐につままれたような感覚を覚えた。



逢いたいひと…



あれはもう3年前になる。

わたしは突然大切な人を失った。


言葉にならない

いや、言葉にできない

苦しみやつらさ、心配をかけないように気丈に振る舞うことによりさらにみんなに心配をかける悪循環。



気丈に振る舞っているつもりでも心の中は荒んだ。



心から大切な人を失った時…

何を支えに生きればいいのか?


静かに後を追えばいいのか?


いや、それでも生きなきゃいけない。

生きていかなきゃいけない。


『もう3年か…』



この3年…

大切な人を忘れた日はなかった。



忘れようとも思った。

しかし、忘れられなかった。


大切な人がどうしてこの世を去ったのか

今でもまだわからない。



つらいことがあったのかもしれない

だったらなぜわたしに話してくれなかったのか…


後悔というか悲しみの念が込み上げてくる。



もしも、黒猫の言うことが本当で一度きり逢えるとしたら、わたしは大切な人になんて言うのだろうか?


責めるのだろうか?

泣き叫ぶのであろうか?




誰にでも『大切な人』はいるはずだ。


恋人だったり、家族だったり、子どもだったり。



その失った人にたった一度きり逢えるとしたら?


その逢える時すら選べるとしたら?



いつ逢うことを選ぶだろう?

いっそ逢わずに自分の人生を全うしたほうがいいのだろうか?



わたしの目の前に現れた黒猫を言うことが嘘であっても本当でもわたしは逢うことを選ぶのであろうか?



気持ちは逢いたい!

けど生き返るわけではない


もう一度再会したら今度はちゃんと生きていけるのだろうか?


わたしの中で『逢いたい』気持ちと『不安』な気持ちが入り混じる。



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