魔法少女戦隊ピュアローズ!

にゃべ♪

それは強引で強制的な勧誘

 まだ全然暑い日が続く9月中旬、先輩と反りが合わずに部活を辞めた私は、中学2年生にして気ままな帰宅部生活を満喫していた。友達は大抵部活に入っているので、放課後は必然的に1人になる。

 この日も授業も終わったので、教科書やノートなどをカバンに詰め込むと教室を出た。


 瀬戸内海に面した地元は他地域に比べたら暑さは抑えられている方だ。だからと言って、何もしていなければ熱中症で倒れる可能性は低くない。帽子は当然、こまめな水分とミネラル補給、そして日焼け止め。本当は携帯の扇風機とかの冷感グッズだって欲しい。

 もうこの暑さどうにかしてよ。うう、家に着くまでに倒れそう……。


「あついー。アイス食べたいー」


 私は遠くなる意識を何とか保ちながら、帰宅途中にあるコンビニを目指す。冷たいものを摂取しないと家まで持ちそうにないのだ。

 お目当てのコンビニが目に入ってきて、私の目はランランと光輝く。


「今日は何のアイスを食べよ痛っ!」


 突然首元に刺さった謎の何かを抜くと、それは真紅の薔薇だった。それを確認出来たところで、私の意識は途絶えてしまう――。



「……はっ!」


 目が覚めた時、私は倉庫みたいなところで敷かれているマットの上にいた。不思議と暑くはない。どこなのここ?

 周囲を見渡していると、出入り口のドアところに人影を見つける。


「起きたようね赤井タマミ!」


 私を知っている風なその人物は、黄色い魔法少女風の衣装を着た女の子。見た目から推測すると、年齢も私と同じくらいのように見える。私の名前を知っているって事は、もしかしたら知り合いなのかも知れない。顔に見覚えはないけど。


「あなた誰?」

「秘密よ! まだね!」


 黄色い子はふんぞり返って腕組みをする。中二病ってやつなのだろうか。普通に痛い。私は改めて彼女の服に注目する。市販品か手縫いか分からないけど、出来はとても良さそうだ。魔法少女の衣装だと思うんだけど、私の記憶の中にああ言う衣装はない。私の知らない作品の衣装なのだろうか。

 まぁそんな事を考えても仕方がない。よく分からない事には関わらないのが正解だ。そう思っていたのに、つい口から本音が漏れてしまった。


「何そのコスプレ? 恥ずかしくないの?」

「あなたもその恥ずかしい衣装なんだけど?」

「え?」


 指摘されて初めて私は自分がコスプレしている事に気付く。黄色の子とデザインは同じだけど、色は赤をベースにしていた。倒れている間に着替えさせられたのだろうか?

 この現実を前にして、私は思わず頭を抑えた。


「何これー!」

「ようこそ、魔法少女の世界へ!」


 黄色魔法少女はドヤ顔だ。彼女は色々と知っているのだろう。私は、何も知らないのが嫌になって声を荒げた。


「どう言う事! 説明してよ!」

「そうね、私はローズイエロー。魔法少女戦隊ピュアローズのメンバーよ」

「何それ? コスプレのチーム名?」

「違うわ! 本物の魔法少女よ!」


 イエローいわく、私の衣装も魔法で変身したもので、解除すると普通の服装に戻るらしい。とても信じられなかったけど、証拠を見せると言って目の前でステッキを具現化? させたので、どうやら嘘ではないようだ。

 私は何故今自分がこう言う状態になっているのか考える。そこで得た結論を目の前の彼女にぶつけた。


「分かった。あなた、私を勧誘しているのね」

「察しがいいじゃない。赤井タマミ! 私達と一緒に魔法少女戦隊に入ってよ!」

「私達って、他に誰かいるの?」

「ふふ、あたいを呼んだかい?」


 ここで会話に割って入ってきたのは、いつの間にかイエローの隣りにいた同じく魔法少女衣装を着た少女。髪型はショートカットで、その顔は何処かで見た事があるような気がするけど、思い出せない。そして、服のベースカラーは黒。

 そこから導き出される結論を私はぶつける。


「あなた、ローズブラックね」

「正解! お約束が分かってるじゃないか」

「じゃあ、私がローズレッドって事?」

「飲み込みが早くて助かるわ」


 イエローもブラックの何故かドヤ顔だ。しかもラーメン屋の店主みたいに得意げに腕を組んでいる。同じ服を着させられたって事は、私もあの子達と同類って事? うう、悪夢なら早く覚めて欲しい。

 私は頭を抱え、何故こうなってしまったのかを考える。頭の中で過去に遡っていくと、その原因らしき事象に辿り着いた。


「もしかして、あの薔薇!」

「そう。薔薇が能力を覚醒させるの。赤井タマミ! あなたは選ばれたのよ! 薔薇色の魔法少女にね!」


 イエローは鼻息荒く説明する。その勢いから考えて、薔薇を投げたのも彼女なのだろう。人を勝手に魔法少女にするだなんて許せない。私には私の都合ってのがあるんだ。

 ムカついた私は、イエローに向かって指を刺した。


「て言うか、何で勧誘で襲ったりすんの!」

「時間がなかったの。あなたにはリーダーをしてもらう」

「何で私が?」

「あなたがレッドだから!」


 無茶苦茶だ。そりゃ戦隊モノのリーダーはレッドって相場は決まってるけど、普通は順序が逆だと思う。リーダー気質の人がレッドになるんだ。レッドだからリーダーをやれって本末転倒じゃん。

 話の流れに納得出来なかった私は、このふざけた学芸会から降りる事にした。


「やらない。帰る!」

「帰さないよ!」


 イエローはいきなり持っていたステッキを振る。それで発生した黄色いキラキラ粒子は、まっすぐに私の方に向かってきた。当たると何が起こるか分からないけど、危険を感じた私の脳内に謎の魔法式が浮かび上がる。

 判断する時間はないと、すぐに私はそれを実行した。


「レッドガード!」


 呪文を唱えると同時に、両手を前に出す。この動作によって目の前に魔法陣が作り出され、イエローの謎の攻撃を全て弾き返す事が出来た。

 一連のやり取りが終わった後、黄色魔法少女は頬を赤らめながら息を弾ませる。


「ステッキなしで魔法を使うとか、流石はリーダー!」

「いきなり攻撃されたら誰だって必死になるわ!」


 私はイエローを非難したものの、当人はどこ吹く風だ。全く反省の色がない。と、ここでまた新たな人影が姿を現した。


「やっぱりこの戦隊はダメね」


 その声の主は同じく魔法少女衣装に身を包んだ女性。ひらひらの衣装は青を基調としており、大人の色気を感じさせる。明らかに年上のそのスタイルは、思わず見とれてしまうほどだ。イエロー達の事を知っているようなので、明らかに関係者なのだろう。

 その推測は正しかったようだ。彼女の出現にイエローが目を大きくする。


「ブルー?!」

「やっぱりあの人も仲間?」

「そう、ローズブルー。この戦隊を立ち上げた魔法少女。そして私達の敵!」


 イエローはそう言いながらぎゅっと拳を強く握る。彼女はその因縁の当事者だから憤るのも分かるのだけど、聞かされている私は理解が追いつかない。つまり、あのブルーってのがこの組織を作って、今は裏切った?

 一体どんな事情があったのだろうと、私の好奇心に火がついた。


「どう言う事?」

「あの人、メンバーを集めたら自分だけ年増だって気付いて出てったの」

「は?」


 トンデモな理由に目が点になる。ここでブルーが話に割って入ってきた。


「もっとね、様々な年齢のメンバーが集まると思ってたの! でも何? 私以外全員14歳よ! やってらんねーでしょ!」


 つまり、彼女は自分が一番年上でババア扱いされるのが嫌で抜けたって事のようだ。なんだそれ。あまりに下らない。世界を救う上で方針の違いがあって喧嘩別れしたとかそう言うのを想像していたのに全然違ったわ。

 こんな茶番に付き合ってられない。私の中のやる気ゲージは0になった。


 丁度この時、ブルーとイエロー、ブラックがバチバチにやり合っていて、私への注意が逸らされていた。離脱するなら今がチャンス!

 私は気配を消して、出入り口の空いている隙間を目指して歩き出す。


「じゃあ私はこれで」

「帰らせないよ?」


 ブルーに向き合っていたはずのイエローの視線はすぐに私に戻った。やはりそう簡単にあきらめてはくれないらしい。だからって、こんな茶番劇に付き合う理由が私にはなかった。


「勝手にやり合ってなよ! 私を巻き込むな!」

「何ですってえ!」


 キレたイエローがまたステッキをかざした時、ブルーが動いた。彼女もまたステッキを振り、至近距離にいた2人に魔法をかける。不意打ちだった事もあり、イエローとブラックはこの魔法をまともに受けた。

 魔法の糸でミイラみたいにぐるぐる巻きにされた2人は、倉庫の天井から吊るされる。


「フン、いい気味ね」

「あの、どうするつもりなんですか? まさか」

「あの子達は生意気だから口答えしないように私の忠実な下僕にするだけよ。あなたはやらないんでしょ? 帰っていいよ」


 ブルーは私に向かって手をひらひらと動かす。早く帰れのジェスチャーだ。今なら何事もなく帰れそうだけど、それは無抵抗状態のイエロー達を見捨てる事になる。確かにイエローはイカれたところはあるけど、だからって洗脳されていい訳がない。

 私は2人に向かって洗脳魔法をかけようとしているブルーの前に立ちふさがった。


「私は無関係だけど、あなたは見逃せない!」

「じゃあ、あなたも同じようにしてあげる」


 ブルーはニヤリと笑うと、私に向かってステッキを振る。使ったのは同じように拘束する魔法だろう。相手の攻撃特性を理解した上で展開した魔法のバリアで、私は拘束魔法を弾き返す事が出来た。


「へえ、やるじゃない。なら、これはどうかしら?」


 次に、ブルーはステッキを鞭に変化させる。今度は物理攻撃のようだ。危険を感じた私の脳内に、またしても魔法式が浮かぶ。それを頭の中で展開した事によって私の手にもステッキが生成された。

 まだ使い方はさっぱり分からないけど、時間がないから直感に従うしかない。


「ブルーローズウィップ!」

「レッドローズビーム!」


 無我夢中になっていた私のステッキから放たれたビームはブルーに直撃。彼女が防御魔法に切り替えたところまでは見えたものの、その直後の大爆発で視界は遮られる。

 私は自分が放った魔法の威力に驚き、ポカンと大きく口を開けた。


「やりすぎちゃった……」


 自分の力の暴走に軽く後悔をしている間に、スーッと爆炎は消えていく。その後には何もない。見渡してみたものの、ブルーの姿はどこにもなかった。

 最悪の想像までした私は、思わす口を押さえる。


「嘘? 私……もしかして……」

「逃げたな。相変わらず逃げ足が早い」

「え?」


 気が付くと、私の右隣にイエローがいた。ブルーがいなくなったので、魔法の効果が切れたのだろう。

 反対側にはブラックも並んで立っていて、私の顔を覗き込む。


「有難う。これでタマミもあたい達の仲間だね!」

「や、仲間になるとか言ってないし」

「仲間になったら、あたい達の正体を教えてあげるけど?」

「う……」



 こうして私がレッドになる事を了承した事で、魔法少女戦隊は正式に活動を始めた。やってる事は魔法を使った人助けで、ボランティア活動みたいなもの。

 正直想像とは違ってたけど、帰宅部だった私にはいい暇潰しになってるかな。


 あ、2人の正体についてだけど、イエローは黄野スズネ。ブラックは黒川シズル。2人共私のクラスメイトだった。道理で私の名前とか知っている訳だよ。魔法少女になると認識阻害魔法が発動するから、それで気付かなかっただけみたい。

 ちなみに、ブルーの正体は青山ヨウコ。何と担任の先生だった。何これ、関係者全員集まりすぎでしょ。


 これが私、魔法少女戦隊ピュアローズのレッドの薔薇色の物語の始まり。そこから先の物語はまたいつか――。



(おしまい)

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