第2話 いつも威張っている母が突然泣く

 当時、私は鬱で退職し、大学院に入り直していた。収入がなくなる上に学費もかさむ。一人暮らしの家は引き払い、実家に戻った。母との生活は不安だったが、大学にいる時間を長くすることで、母と物理的距離を取る作戦だった。

 たちまち新型コロナウイルスが蔓延した。大学院は1ヶ月遅れのオンライン授業となり、家から一歩も出られなくなった。心底落胆した。

 それでも私は、母よりも自分の気持ちを優先することに努めた。実家に帰る際、「母のご機嫌取りだけはすまい」と誓ったからだ。

 母は私の異変(?)に気づいたようだった。娘が自分の思い通りにならないことが不満だったのだろう。ときどき大きなため息をついた。

 そして「生活費入れてくれない?」と言ってきた。私は折れた。交渉する気力はなかった。また母は、急に家の建て替えを計画しはじめた。建て替えの間は一時的に狭いアパートへ移る。私は母とより密になることを恐れた。


 それでもその後、またしばらくはうまくやった。大学院の研究にも精を出した。しかし2ヶ月ほど経った頃、疲れが出て鬱がひどくなってしまった。


 決して忘れられない6月11日。父と妹は仕事に出かけ、家には私と母だけ。母は「6月分の生活費払ってね」と催促してきた。私は、「コロナの給付金から引いて」と返した。すると母は、居丈高に「ねえ、何か気にくわないの?」と言い、そして突然子供のように泣きはじめた。

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