第2話仙岩寺と警部補
仙岩寺は、九州と言えば芋焼酎を楽しみにしている。
大口酒造の黒伊佐錦をお湯割りで飲む。
サーブするのは、広坂警部補。
「この、鯛の塩焼きには黒伊佐が抜群ですな。広坂さん」
「はい。この辺りの魚介類には黒伊佐がぴったりです」
「ところで、この島の名前は何と言うのですか?」
「ここですか?……亡霊島と呼ばれています」
仙岩寺はこの手の話しが大好きだ。
「何ですか、亡霊島って」
「昔、平家の落ち武者がたどり着いたのがこの島なんですが、島民が手柄欲しさに落ち武者を惨殺したのです。その後、怪事件が起こり死んだ平家の落ち武者が亡霊として殺害したと噂されているんです。しかし、ここは九州の歓楽地。美味い魚介類で繁盛してますよ」
仙岩寺は、トビウオの刺し身を食べながら、くちゃくちゃと音を立てて食べて、焼酎を飲んだ。
広坂は、一瞬嫌な顔をした。
中居の里美が部屋に現れた。
芋焼酎のお湯用のお湯を持って来たのだ。
「田島ちゃん、一緒に飲まないかい?」
「いえ、先生、私は仕事がありますので」
「一杯くらいいいでしょ?女将には私から伝えておくから」
と、仙岩寺は里美に焼酎を飲ませた。
1時間後。
「だ〜か〜ら〜、犯人は誰なの?」
「おいおい、君は絡み酒かい?」
と、広坂が言うと、
「いいえ」
と、言って里美は立ち着物の帯を解いて半裸になった。
「馬鹿、馬鹿、お前は脱ぎ魔だったのか?」
「探偵さんも、刑事さんも女心を理解していないのね」
里美は形の良い胸をしていたが、仙岩寺と広坂は散々、女性の全裸死体を見てきたので驚かなかった。
里美は半裸で、焼酎を飲み始めた。
その時だ。
ガラッ
襖が開いた。
「な、里美ちゃん、何してんの?」
女将だった。
「だって、暑いんだもん」
「すいません、うちの里美は飲むとこうなので」
「いえいえ、女将さん。良い中居さんです」
「……そ、そうですか」
「おばちゃん、今夜はもう寝ます」
と里美は言って去った。
女将は仙岩寺と広坂に頭を下げて、出て行った。
2人はアワビの刺し身で飲み始めた。
コリコリして美味しい。
九州の醤油は甘い。それが、刺し身に抜群に合うのだ。
そろそろ、お開きにしようと各々の部屋に戻る最中、隣りの部屋から悲鳴が聞こえた。
団体客の大里大学のメンバーの1人が口から血を流して痙攣を起こしていた。
平山美保だった。
仙岩寺と広坂は応急処置をしたが、口から泡を吹いていた。
平山が飲んでいた、ジュースのグラスの匂いを仙岩寺と広坂は嗅いだ。
異常はない。てんかんだろうか?もしくは、知らない薬物か?
「君たち、待ってなさい。直ぐに行ってくる」
と、ハゲた男が言った。教授の鈴木健二が。
「先生、台風が近付いていて夜は危険です」
「大丈夫。私が医者を連れてくる。本来は運びたいが波が高い。揺らしてはいけない。私は船舶士の免許を持っている。15分の距離だ。安心しなさい」
と、言って鈴木は漁船で内地に向かった。
周りは見守るしかない。平山には歯で舌を噛まない様にスプーンを咥えさせた。
20分後。漁船は戻ってきた。
港で教え子と仙岩寺、広坂は待っていた。
だが、漁船は減速もせず港に衝突した。
不審に思った、仙岩寺と広坂、そして林は漁船に飛び降りると、決して女の子には見させられない惨状であった。
そう、鈴木教授の顔面は潰され、左手腕が切り落とされていたのだ。
広坂は直ぐに、内地の県警に電話したが電話線が切断されていた。
台風が過ぎ去るまで、遺体は安置した。
そして、泡を吹いて倒れた平山美保は朝方死んだ。
こうして、凄惨な連続殺人事件は2人の死を持って幕を挙げたのである。
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