第6話 接触

………止めろ………


「う、う~ん」


………ナ……を……止めろ


「……はっ!」


 頭の中に響き続ける謎の声により、イサトは目を覚ました。


「……あれ、俺は一体、何を?」



「キュキュー!!」


「カバンッ!!」


 最初に目にしたのは、共に行動していた、相棒の宝石獣カーバンクル『カバン』だった。カバンは意識を取り戻した彼に歓喜の涙を流しながら、嬉しそうに彼の左肩に飛び乗ってきた。


「お前も無事だったのか、良かった」


「キュキュ~!」


 イサトはカバンが無事だと安堵した後、周囲を見回す。其処は、彼が異世界に来た最初の夜、出会ったばかりのカバンと共に寝泊まりした、教会のホールだった。彼は自分の身に何が起きたのか思い出す。


「……そうだ。俺、オオサンショウウオの怪物バケモノに襲われて……」


 自分が世界最大の両生類と酷似した怪物バケモノの攻撃によって重症を負わされ、生死を彷徨っていた事を思い出す。それなのに、体には傷一つなく、左腕も何事も無かったかのように治っていた。


「へっ、嘘だろ!? あの時、強烈な攻撃を受けた筈、傷痕が何処にも……?」


「あっ、良かった! 目が覚めたんですね」


「ッ!」


 女性らしき声を耳にし、視線を向けると、頭部に二つの角を生やした赤茶色のポニーテールの少女が居た。


「だ、誰ですか!?」


「あっ! あまり動かないで下さい!」


 立ち上がった彼を、彼女は心配するように声を掛けた。


「体の具合はどうですか? 何処か痛みますか?」


「あ、いえ、痛みはありませんが、貴女は?」


「あ、申し遅れました。私は【ハーフドラゴム】の『アカリ』と申します」


「ハーフ……ドラゴム?」


 アカリという赤茶ポニーテールの少女は、自身を【ハーフドラゴム】と名乗った。名前からして、彼女は【竜人ドラゴニュート】と同類だと認識する。


竜人ドラゴニュート

ドラゴンと人間を組み合わせた亜人の一種

・全身に並みの武器を防ぐ竜鱗を纏っており、竜の角・翼・尻尾を有している

・炎の息を吐くことが可能


 生の竜人に生まれて初めて対面したイサトは歓喜しそうになるが、相手に失礼になると思い、心の奥底に仕舞い込んだ。


「は、初めまして、自分は結城イサトといいます。えっと、貴女がオオサンショウウオの怪物バケモノから、自分を助けてくれたのですか?」


「えっ!? あ、はい、そうです。といっても、私だけじゃなく、二人の姉と協力して討伐しました」


「姉、二人?」


「ちょっとアカリ、彼の様子見に何時まで掛かっているの?」


「心配になって見に来たよ~」


「あっ、アオリ姉さん! ミドリ姉さん!」


 後ろから近付いてきた二人の女性を、アカリは姉さんと呼ぶ。彼女達は姉妹のようだった。

一人目は、青色の長髪・両頬に爬虫類特有の青色の鱗を持つスレンダー体型の眼鏡の女性。

二人目は、緑色の短髪・臀部に緑色の竜の尻尾を持つ、グラマー体型の女性。


「紹介しますね。私と同じ半竜人ハーフドラゴムの『アオリ』姉さんと『ミドリ』姉さんです」


「どうもこんにちは~。私が次女の『ミドリ』です~」


「長女の『アオリ』よ。以後よろしく」


「初めまして、自分は結城イサトといいます。助けていただき、ありがとうございました」


「いえいえ、大した事ないですよ~」


 次女のミドリは友好的に挨拶してきたが、長女のアオリは少々警戒している様子で挨拶をした。イサトは改めて、半竜人の三姉妹に感謝を伝えた。その時……


(グゥゥゥーーー)


「…あ」


「「「……?」」」


 安心感を得たのか、イサトはうっかり腹の虫を鳴らしてしまった。


「すいません、昨日の夜から果物しか口にしてなくて……」


「ちょうど今、スープが出来上がったので、良かったら、御馳走になりますか?」


「ッ! いただきます!!」


「キューーー!!」


 空腹状態のイサトを見て、アカリは二人の姉と協力して作ったスープを御馳走させてあげると誘ってきた。彼とカバンは有難く承諾した。


「その前に、先ずは血だらけの衣服をどうにかしたら」


「あ……」

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