第7話 転移者(プレイヤー)

「……」


「あの、イサトさん。このスープ、お口に合いませんでしたか?」


「…え、あっ! いえいえ、とても美味しいです! 特にこの歯ごたえのある肉が! これ、何の肉ですか!?」


「キュウ!(ムシャムシャ)」


 夜空に輝く満月の光で照らされた無人街。血塗れの服から革の服を着替えたイサトとカバンは教会の屋外で、三姉妹が用意してくれた夕食の野菜スープを一緒に堪能していた。

 イサトは野菜スープの具材の肉が何なのか尋ねると、次女のミドリが答えた。


「本当ですか~? 実はそれ、君を襲っていた魔物『大喰らいの粘竜プレデターサラマンダー』のお肉、なんですよ~♡」


「えっ!?」


「キュッ!?」


 何とそれは、イサトとカバンを襲撃してきたオオサンショウウオ型の魔物『大喰らいの粘竜プレデターサラマンダー』の肉だった。その返答を訊いたイサトとカバンは驚愕する。

 

「ぶふっ! ミドリっ! あんた魔物の肉を入れたの!? しかもよりによって『大喰らいの粘竜プレデターサラマンダー』の肉を!」


「ミドリ姉さん! 入れるなら私に事前に教えてよ! すみませんイサトさん、ミドリ姉さんはゲテモノ系の魔物が好みで、勝手に料理に入れちゃう癖があるんです! やめるよう何度も言っているのですが……」


「えへへ~、ごめ~ん。でも、今回は美味しかったから結果オーライでしょ~?」


「「よくない(わよ)!!」」


「……逆に興味が湧いちゃったんですけど、今までどんな魔物を食べましたか?」


「キュウ?」


「「…えっ!?」」


「たしか~、小鬼蜘蛛ゴブリン・スパイダーの塩茹でに~、石毒鳥コカトリスの蛇頭尾の蒲焼に~、蜥蜴野人リザード・ワイルディング尻尾テールスープに~、それから~……」


「やめてぇぇぇっ!! うっかり魔物を食べた昔の記憶を思い出させないでぇぇぇっ!!」


「うわぁぁぁっ!! すみません、その話は後日じっくり聞きますので、今日はこのへんで!!」


「キュウキュウッ!!」


「は~い、分かりました~」


 アカリは相当なトラウマを持っているのか、これ以上言わないでほしいと懇願し、イサトはこの話を中断した。こうして、イサト達は食事を楽しみながら、一夜を共にした。






□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■






「グー…グー…」


「キュー…キュー…」


「……」


「あの純人ヒューム宝石獣カーバンクルは眠った?」


「うん、ぐっすり眠ってるよ」


「そう…」


 疲労と満腹感でイサトとカバンがベンチで深い眠りについていることをアカリが確認し、教会の外にいるアオリとミドリに報告する。三人は焚き火の前で、彼についてコソコソと会話を始めた。


「アオリ姉さん、どうして彼に、大喰らいの粘竜プレデターサラマンダーは私達が辿ことを黙っておくの?」


「……これはあくまで私の予想だけど、もしかしたら彼……【】の一人かもしれない」


「っ!?」


「それは本当なの~、アオリ姉さ~ん?」


 アオリは、イサトが【ぷれいやー】の一人ではないかと推測。


【プレイヤー】

①数カ月前に何処からともなく出現した、別世界の人間の呼称。別名『転移者』

②他の冒険者とは比較にならない戦闘力・反則級の能力スキルを有している

③神話にしか存在しない【伝説級の武具・防具】を装備している

④どんな強力な魔物・悪党だろうといとも簡単に倒してしまう


「二人も見たでしょ、大喰らいの粘竜プレデターサラマンダーの死骸に刻まれた挫滅創ざめつそうを。あれ程の損傷を与えられるのは【転移者ぷれいやー】以外、他にいないわ」


「でも~、あの純人ヒュームが倒したとは限らないよ~?」


「そうだよ! 傷は無かったけど、血塗れでボロボロだったんだよ! 普通の純人ヒュームが大喰らいの粘竜プレデターサラマンダーを、しかも……他の個体よりも狂暴なを倒したなんて信じられない!!」


大喰らいの粘竜プレデター・サラマンダー

 オオサンショウウオと酷似した姿の大型両生種の魔物。物理・魔法攻撃を無力化する粘膜を全身に纏い、伸縮自在の舌と粘着性の唾液で獲物を捕食する生態を兼ね備えており、自身よりも弱い魔物・人間を糧にしている。


 だがこの個体は特別で、『形状変化メタモルフォーゼ』と呼ばれる技能スキルを有する『突然変異種』で、強者と呼ばれるに相応しい人種・他種の魔物を標的ターゲットに、喰らう尽くすまで追撃し続ける異常な執着性を持っていた。


 盗賊の根城・魔物の巣・人里離れた集落に襲撃し続けた結果、ギルドからは『強者喰らいストロング・ハンター』という二つ名を名付けられ、あらゆる人種から畏怖される事となる。


 そんな最凶の魔物が、まるで巨人に殴殺されたような無残な姿と化して息絶えている事に、あの時の三人は動揺を抑えられなかった。


「私だって信じられないけど、念の為に彼を警戒したほうが良さそうね。【転移者ぷれいやー】の中には、ヒトの心を持たない者が大勢いるから」


「「……うん」」


 アオリは、イサトを【転移者ぷれいやー】の一人だと仮定し、アカリ・ミドリに彼がどんな人間か判断するまで警戒するよう伝えると、二人はコクンと頷いた。


 その秘密の会話を盗み聞きするかのように、教会の扉の隙間からがコッソリと覗き込んでいた。

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