番外編② サービス終了

「……」


 推定300メートルの塔の頂上。プラチナ一式の全身鎧フル・プレートを身に纏った青年が、少しずつ沈みゆく太陽を一人でジッと眺めていた。


 彼の名は『荒谷亮太』。現実では今年でアラフォーになる、会社勤めの独身サラリーマんだ。


「あの夕陽が沈めば、このゲーム【アポカリプス・オンライン】のサービス終了の合図か」


 【アポカリプス・オンライン】

 20XX年に開発。プレイヤーがあらゆる種族の冒険者となり、強大なモンスターを討伐・巨大迷宮ダンジョンを探検する、剣と魔法の世界が舞台のフルダイブ型MMORPG。


 彼は、制限時間以内にお互いの作成した迷宮ダンジョンを最高何階まで踏破したか競い合う『タワーディフェンスバトルシステム』で世界大戦ランキング第一位を獲得した世界最強冒険者ワールド・チャンピオン


 その彼は、仲間達と共に、原点にして頂点の迷宮ダンジョン、【アポカリプス】を最上階の頂上まで到達し、現在に至る。


「皆、現実元の場所に帰っちまったか……結局、昔も現在いまも……俺はぼっちか……ふざけんな!!」


 亮太は寂しそうな表情で呟いた後、怒りの表情で『バンッ!!』と思いっきり壁を叩いた。


「一体何のためにこのダンジョンを制覇したと思っているんだ!! 皆であの夕陽を眺めようと約束したのに!! そんなに現実が大事かよ……それとも両親も愛する人も居ない俺への当てつけかよ、クソがっ!!」


 【アポカリプス・オンライン】のサービス開始から終了まで、ずっと共に行動していた仲間達が、この夢のような世界を簡単に捨てたことに、亮一は腹を立てたが……


「……いや、努力で大切なものを手に入れたあいつ等を、何の努力もしなかった俺が責める権利は無いな」


 自分達の帰りを待つ友人・愛人・妻・息子・娘・両親を持つ彼等を激昂する自分に嫌気が差し、黙り込む。


「……確か、小学5年生の頃にで亡くしてからだったかな。俺が不幸な人生を送るようになったのは」


 亮太は、自身のこれまでの人生を追懐した。

 

「中学・高校・大学じゃ、文化祭・運動会などの大事な時期に《最悪のタイミングで病気を患って》、友達作りや思い出作りも出来なかったな」

 

 そうしている内に、太陽がもう直ぐそこまで沈みかけていて、亮一はそろそろかと諦観する。


(次は非現実ゲームの世界でじゃなく、現実リアルの世界で今度こそ思い出と友達をちゃんと作ろう)


 亮太は受け入れるように目を瞑った瞬間、意識がプツンと途切れた。






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 とあるアパートの一室。頭に電子機器のヘルメットを被った一人の男が、布団の上で仰向けに寝転がり、死んだように眠っていた。そしてそれをが直立し、何かを確認するように、彼を凝視していた。


 するとその謎の黒い影が宙に浮かぶに面して一言呟いた。


「対象……『荒谷亮太』の昏睡を確認。これより、現場に帰還します」

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