第6話 娘も

 私は妻が抱えていたミンチーを奪うように取りあげ、そのまま娘の方に向かって放った。娘はそれをキャッチし、そのままハサミを置いた。そして、一言恐ろしい言葉をつぶやくのであった。「ああ、やっと戻ってきた。ごめん、もしお父さんとお母さんが本当にミンチーを持っていっていたら、本当にハサミで切りつけていたと思うよ。んじゃあ、おやすみ。」

 娘はそのままミンチーを抱えて、自分の部屋に戻っていこうとした。「お前、変わったな、、、そんな子じゃなかったのに、、もう昔のゆみじゃないんだな。」込み上げる悲しみと絶望感からとっさに出た私のその言葉に反応したのか、娘は無表情で再び私の方を振り向いて、走り寄ってきて、私の胸を思いっきり叩くのであった。余程興奮していたのだろう。その時の彼女から聞こえてきた鼻息はとても荒いものであった。私はただただ、彼女を胸に抱きしめ、彼女を慰めた。「もう、ミンチーを取ろうとはしないから、そんな怖い顔をしないで、、、それに乱暴な言葉はもうお父さん、お母さん、耐えられないよ、」私の言葉に娘は泣き出し、少しずつ自分の本当の気持ちを口にしだしたのだ。

「私だってさ、私だって、本当はこんな事したくないよ。ミンチーといると私はすごく嫌な人になるってわかっているけど、でも、でもね、どうしてもこの子から離れられないの、、、私だって昔みたいに戻りたいの、、、、」

 どうやら、娘自身もミンチーに依存する自分が異常であるという自覚があったらしい。そして、それについて深く悩んでいるのだとその時始めて気がついたのだ。 

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