第5話 修羅場
妻の提案であった。娘があきらかにぬいぐるみに依存をしていたので、それを離すのが一番だと私も思っていた。「そうだな、今日、ゆみが寝ている間に、ぬいぐるみをどこかに隠すか、、、。」私は妻の提案に賛成し、こっそりと夜中にゆみの家に入ってミンチーを持ち出すという計画を立てたのだ。
夜になり、作戦決行の時が訪れる。一抹の緊張と不安を感じながら、私は娘の部屋に恐る恐る足を踏み入れた。そして、娘がぐっすり寝ている所を確認し、枕の横にあったミンチーを娘が起きないようにそっと持ち上げた。改めて、ミンチーをよく見ると、とても不気味な感じがした。全身タバコ色にコーティングされており、目は真っ赤に塗られ、手には注射器を持つ、、その奇抜なデザインにどうして、こんなぬいぐるみにここまで娘が依存するのか疑問を感じずにはいられなかった。そして、ぬいぐるみからは娘の匂いが混じった何やら甘いにおいがしていた。私は娘が起きるかどうかハラハラしながら息を殺し、娘の部屋からそっと出ていった。
リビングで私の帰りを待っていた妻にミンチーを渡した。「いやーとても怖かったよ、起きたらヤバかったけど、案外大丈夫だった。頑張ったは俺!」と誇らしげに自分の仕事っぷりをアピールした。すると、妻も安心した顔で「よくやったね。まあ、あの子も少しの間、このぬいぐるみと離れてくれたら、忘れてくれるはずよ。」と安心している様子であった。このように、私達は無事に娘からぬいぐるみを離すことができたと思って心が緩みきっていた。しかし、そう上手く行かなかったみたいだ。私達の背後から声が聞こえてきた。「ねえ、いつまで私は我慢するの?、私はなんでミンチーから離れないといけないの?、あ?やめろよ、、おい」そこには眉間にシワを寄せ、目を真っ赤にしている娘がいた。娘はその手にハサミを持っていた。
その娘の姿に私はただ茫然自失した。そして、瞬時に身の危険を感じたのだ。娘はハサミを我々にちらつかせ、「返せよ」と小さな声で訴えてきた。私達は大声でそれを静止するが、彼女はその歩を止めようとはせず、私達に近づいてきた。妻は娘のその姿に余程ショックと恐怖を受けたのか、手で口をおおい、その場に膝をついて泣き崩れていた。「わかった。わかった。わかったから、ミンチーを返すから、そのハサミを置きなさい。」と私はひたすらその危険行為をやめるよう説得を続けた。
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