魔法の森の妖精
むかしむかしのお話。
とある王国に、王女さまが生まれました。
それはそれは可愛らしい、珠のような赤ちゃんです。
長い間子供に恵まれなかった王さまとお妃さまは大喜び。
国じゅうの人々も、王女さまの誕生を喜びました。
さて、この国では、赤ちゃんが生まれると、魔法の森の妖精に、祝福を受ける風習がありました。
森の木々の祝福を集めた特別なスプーンで「しあわせ」をすくい、赤ちゃんに飲ませるのです。
貧しい家の子はひとすくい。
ふつうの家の子は三すくい。
お金持ちの家の子は五すくい。
でも王さまの家の王女さまには、特別に七すくいの「しあわせ」を飲まさせることになりました。
その儀式の日。
王さまとお妃さまは、王女さまを抱いて、魔法の森にやってきました。
森の妖精の家は、「しあわせ」の泉のすぐとなり。
妖精は泉の前で、王女さまの到着を待っていました。
「スプーンひとすくいに、『しあわせ』をひとつずつ込めます。どんな『しあわせ』にしましょう?」
妖精がそう言うと、王さまは答えました。
「誰からも愛される、素敵な笑顔の子になりますように」
妖精は願いを込めて、魔法のスプーンで泉の水をすくい、王女さまに飲ませました。
「皆がときめくような、美しい声になりますように」
お妃さまがそう言うと、妖精は、願いを込めて泉の水をすくい、王女さまに飲ませました。
「頭の良い子になりますように」
「慈悲深い優しい心の持ち主になりますように」
「病気をせず丈夫な体になりますように」
「豊かな国で豊かな暮らしができますように」
そして、最後の「しあわせ」を王さまが言いました。
「大きな胸の魅力的な女性になりますように」
「ちょっと待って」
すると、お妃さまが止めました。
「どうして胸が大きいと魅力的なの?」
「胸の大きさは母性の象徴だ。男は皆、女性の胸に惹かれるものだ。大きい方が、魅力的な男性に好かれ、幸せな結婚ができるに決まっている」
「嫌だ、イヤらしい」
お妃さまは眉を吊り上げました。
「あなたは女性を、そんな風に見ていたのね」
「何もイヤらしい事はない、普通の事だ」
けれども、お妃さまは納得しません。
「私は、細くてスタイルが良い方が、魅力的だと思うわ」
「体の細さなど、何の役にも立たないじゃないか。女性は子供を産み育てるのだ。しっかりした足腰に、お乳がたくさん出る大きな胸……」
「それは偏見よ!」
お妃さまが怖い顔で睨むので、王さまはたじろぎました。
「細くてスレンダーな方が、色々なファッションを楽しめるわ。女性としての人生を豊かに過ごせるに決まってるのよ。女性は子供を産む道具みたいに言わないで!」
「体が細くないと魅力的でないというのも偏見だろう!」
「まあまあ……」
妖精は苦笑いしてこう言いました。
「では、七つ目の願いは私が決めましょう」
妖精は魔法のスプーンに泉の水をすくい、王女さまの可愛らしい口に当てました。
「――差別や偏見のない、公平な目を持てますように」
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