第8話

荷物をロッカーに押し込み、タイムカードを押す。それから、フロアへ入る手前にある鏡で自分の身だしなみをチェックする。



フロアに入れば鏡が沢山あって嫌でも自分の容姿が目に入る。



髪型が変だったり、メイクが崩れていたり……、



けれど、フロアへ足を踏み入れたら、自分の容姿を整えるようなことをしてはいけない。



それが入社した日に先輩美容師から教えられたことだ。




……なんて、真面目にそれを守っているのはわたしぐらいだけかも。




「真面目すぎるほど真面目」




心の中でそう呟き、またも苦笑をひとつ落とした。それから、タオル畳をしている同期たちの輪の中へ混じった。




***




「わたし、今日~、朝から先輩と喋っちゃったっ!」


「え?まじ?ずるい。いいなぁ」


「いや、先輩はいつでも気軽に喋ってくれるじゃん。わたしなんか、昨日、店長と15分も喋ったよ」



「「「まじー!?」」」




「でも!でも!店長は彼女居るじゃん!」


「まぁーねー。けど、目の保養ってのが大切だし。それより、昨日の樹さんとのデート!どうだったの?」




"ずるい、いいなぁ"



そんな言葉を連呼する同期たちの会話を、ぼんやり聞き流す。



彼女たちが競い合うようにして話しているのは、ここで働いている先輩美容師(男)のこと。



はっきり言って、わたしは興味が無い。

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