第7話

***




はぁ……、



大きな溜息をひとつ落として、分厚い扉を開けた。



いや、実際はそれほど厚みのない扉なのだけど、自分の気分の重さをプラスして重厚と化した扉の向こうへ身を滑り込ます。




「おはようございます」




そこには誰も居ないが、一応声に出して挨拶をした。



シン、とした窓のない部屋は、毎日掃除をしても蒸れた匂いがする。ロッカーの奥に貼られた"整理整頓"の文字を見て苦笑いするのがわたしの日課。



今日もここの掃除をしないとな。

そう思った時、ガチャっという音がして人が近寄ってくる気配を感じた。




「詩乃、おはよ~」




わたしが入って来た扉とは別のドア、フロアからからこのバックルームに入って来たのは、同期の実南(ミナミ)。



ハイトーンに染めた肩までの髪を真っ直ぐ下ろし、サイドをバレッタで留めている彼女は、目がクリッとしていて素敵女子を代表するような女の子だ。




「おはよう」


「遅いじゃんー。早くタオル畳まないと、まった怒られるよ」


「ごめん、すぐ行く」




美容師1年目のアシスタント、わたしたちに与えられた仕事は、掃除と洗濯、そして片付けだけだ。

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