第6話

見た目と外面だけが良いこの男のどこが好きなのか?今となれば分からない。



けれど……、




「ごめんな?詩乃」




褐色の瞳を揺らし優しい指で、わたしの髪の毛を撫ぜる。



このどことなく儚げで寂しげな彼を包むオーラが好きだったんだ。



いや、今でも好き。



ギュッと体を引き寄せて、彼特有の香り匂う。しっくりと重なり合う体温に、愚かだと分かりながらも幸せを感じた。




「愛してるよ、詩乃。俺が心から愛しているのはお前だけだ。分かるだろ?」


「……うん」




分かる、いや分からない。



分かっているのは、1つだけ。

わたしは、この人から離れられない。



きっと、そうだ。




「そんな顔しないで、詩乃は笑っている方が可愛い」


「うん」


「よし、いい子だ。次は来週の金曜日に会おう、場所はまたここで」




均等の取れた体に、ブランドもののスーツ。時間を気にして曲げた腕には、彼の年齢ではとてもじゃないが買えない高級腕時計。



素肌しか知らないわたしには、この金と地位で着飾った彼の虚像に眩暈がする。




「分かった」




この部屋から1歩出ればまた、他人同士。

指に触れるどころか、視線さえ合わせない。




……それでも、わたしは彼が好きだ。

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