「君のチートはないねぇ」


 魔法使い連合につくなり、連合長とやらと話すことになった。130cmくらいの低身長のエルフで、髪はもう数年切っていないのだろう、床中を埋めつくしている。この人、ここから動けないんじゃないか?

 風呂とかどう入ってるんだろ。そもそも、身動きが取れるのか? 髪を短くする魔法とかないと説明がつかない。


「聞いてるかい? 君のチートはないんだよ」


 君のチートはないって何?

 話を聞いてなかったらとんでもないことを言われていた。チートがないんだったら、あの天の声、何を言ってたんだよ。これから異世界転移しますって言うアナウンス?

 そんなチュートリアル要らないだろ。そんなこと、異世界転移したら自ずとわかるわ。


「チートはない。魔術的な素養はちょっと優秀かな」

「肉体戦闘のセンスはなくて、運は波があるか、平凡だね」


 何だこいつ。俺が見れないステータスを勝手に覗いて論評するなよ。俺は自分のことをSSRだと思ってるのに、知らねぇ髪長から平凡って言われても……何となく運は気づいていたけどさ。

 金なくて助けられてチートないって、運の浮き沈みがありすぎだから。流石に気づくけど。


「うおっ」

「どうしたんだい? 急に苦悶の表情を浮かべて」


 急激に腹が痛くなってきた。お腹がぐぎゅるるぎゅると鳴いている。何だこれ、痛すぎる。金なくて助けられてチートなくて腹痛くなるって不運が二連続してんじゃねぇか。浮き沈みとかじゃなくて、不幸の比重が多いって。


「腹痛くて」


 何か悪いもの食べたか?

 ミランジを食べたのと、ここに着いた時に水を飲んだくらいだ。どっちかだな。こっちの人には無害だが、俺にとっては害がある菌か何かに違いない。迂闊にこっちのものを食べなければよかった。


「ちょっと待ってろ」


 連合長が椅子から降りた。自分の髪の毛の上を歩き俺の前に立った。俺の腹に手を当てると黄緑色の光が放たれ、みるみるうちに腹痛が治まっていく。


「これは?」

「ヒールだ。お前も異世界に来たのならヒールを学ぶといい」


 ヒール、異世界らしい魔法だ。ヒールを覚えるのは大切だろう。怪我をした時や病気になった時に治せるし。

 でも、そうじゃない。そもそも腹を下したくないんだ。ミランジにしても、水にしても、その他の食べ物にしても、一々腹を下してヒールしたくない。

 もっと、感染予防的な呪文が欲しい。


「殺菌とかそう言う魔法はないんですか?」

「キュビルアだね。それが覚えたいのかい?」


 攻撃魔法よりも飯を食えないことのほうが重要な問題だ。どんな問題よりも、生き延びるために回復魔法を極めていきたい。

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