「何しても腹痛てぇじゃん!」


 回復呪文は軒並み覚えた。ヒール、キュビリア、キュポイアとか色々な回復呪文を覚えたが、腹を下さないことはない。

 何を食っても腹を壊す。もしかして、これが俺のチートなのか?ふざけるなよ。デバフかけやがって、日本語で話せクソ神様。


 殺菌しても消毒しても、すぐに腹を壊すし、その度にキュアを使っているけど、飯食って回復してんのにMP的な疲れが出てくる。流石に飯の度にMP疲れに襲われるのは嫌だ。


「何が原因で腹壊してんだよ」


 殺菌魔法キュビリア、消毒魔法キュポイア、浄水魔法キュアクアとか色んなものを試して見たが、どれ一つとして効果は得られない。もしかしたら、食べ物や飲み物由来の腹痛ではないのかと思って、身体面にバフをかけてみたがそれも無駄だった。

 ここまで、ずっと腹を壊して上からも下からも水が出てくると、いつか本当に体が入れ替わってしまう。


 何か他の理由はないのか?

 食べ物か飲み物、それがその両方だろう。もしも、飲み物由来と仮定して、元の世界に居た時に似たようなケースはあっただろうか。インドの水を飲むと細菌とか何かで腹を壊すって聞いたことがあるな。細菌とか何かってなんだよ。ざっくりしてんな。

 小学生の時に家族旅行で海外に行った時、父さんが腹を壊していたな。あれは、確か水質が合わなかったとか。


「水の硬さ?」


 手元にあった水を口に含んでみるが、硬い気がした。もう、元の世界の水の味なんて覚えていないし、しばらく飲んでいないから忘れてしまったからわからないから、感覚でしかない。もしかしたら、柔らかいのに硬いと思い込んでいるだけの可能性だってある。

 ただ、この世界の水が硬すぎるとしたら、毒でも菌でもなく水の硬さなら、全てに説明がつく。


「なぁ、水の硬さを変える魔法ってないのか?」

「水の硬さ? 攻撃魔法か?」

「違ぇよ。水の栄養量というか硬さというか」


 軟水、硬水、そういう概念がない世界なら水の硬さなんて理解出来ないだろう。これって、何て説明したらいいんだ。


「水の硬さを変える魔法だろ? あるよ」


 長い髪を引き摺りながら連合長が部屋に入ってきた。


「昔、転生者が作った魔法でね。ミネルリと言う」

「今では何の効果もない魔法と言われてるが」


 はじめてこの世界に来た時、ミランジにかけられた呪文の名前だ。何も効果がないおまじないと言っていたけど、あれこそが水の硬さを変える魔法だったんだ。


「ミネルリ、どう使うんですか」

「ヒールやキュポイアと同じ、治したいところ、改善したいところを感じ取る。この場合は水の成分だな」


 飲み水に手をかざし、水の動きを感じ取る。水の成分、ミネラルの濃度を掴まなければいけない。毒や菌を魔力の目で見るように、それをミネラルに焦点を合わせる。


「水の成分を自分好みに調整する。キュビリアで菌を取り除くように」


 ミネラルの量を感覚で調整する。どのくらい取り除いたら柔らかくなるかはわからないが、感覚で良きところまで取り除く。


「ミネルリ!」


 掌から光が放たれ、脳内のイメージが水の中に反映した。

 水を揺すると心做しか柔らかくなっている気がする。いや、そういう意味で柔らかいわけではないんだろうけど、何となく軟水になった気がする。どうせ、プラセボだ。

 お腹壊すのは嫌だな。と思いながら水を飲み干した。


「口当たりがいい!」


 元の世界で飲んでいた水の味にそっくりだ。喉越しが柔らかで、飲んでいてガビガビじゃない。この世界に来てから髪の毛がゴワゴワしているが、これを使ったらすぐに髪質にツヤが戻るだろう。


 何でこんな魔法がおまじない扱いされていたんだ。この魔法こそが一番大切だろう。料理によって硬水と軟水を使い分けるように、水の硬さは生活において重要な因子なのに、この世界にはその概念がない。だから、飯がマズイんだよ。このメシマズ世界が。

 この世界は水の硬さのように何かが抜け落ちているんだ。この欠落した世界で見逃されている魔法が沢山あるはずだ。


「魔法の適正はあるんですよね」

「ちょっと優秀だね。一級魔術師レベルではないよ」

「いや、それでいいんです。俺はなりますよ一級生活魔術師に!」


 おまじない扱いされていた魔法を研究して、生活に即した魔法を発展させてこの欠落世界を豊かにしてやる。


「……ま、まぁ、頑張りなよ」

「元気なことはいいことだ」


終わり

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異世界転移したら腹壊した件 人子ルネ @hitokorene

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