異世界転移したら腹壊した件

人子ルネ

 どうやら、異世界転移したらしい。

 高校からの帰宅中、信号無視したトラックに轢かれてしまった。何か天の声があれこれ言っていたが、言語が違くて何言ってるかわからなかったが、恐らくは異世界に来てしまったらしい。

 街並みはアニメで見た中世ヨーロッパみたいだし、歩いている人の中には耳が長い人もいる。イマーシブシアターの病院に入院したとかじゃない限り、俺は異世界に来てしまったのだろう。


「……腹減ったな」


 異世界に来てすぐに腹が減ることある?

 確かに部活帰りでクタクタで、腹も減っていた。疲れは抜かれているのに腹だけ減るの意味わかんないだろ。転移させるときに疲れをなくせるなら、満腹にさせてくれよ。

 どこかお腹を満たせるものがないかと思って、街並みを見ながら歩いていると八百屋のような店があった。この世界にはどんな食べ物があるんだろうと思って、品物を見てみると元の世界の食べ物と同じようなものが並んでいる。ここだけを見ると日本に見える。


「これっていくらですか?」


 中でも生で食べれそうなミカンを指さした。店主のおばさんは訝しげな表情で見ながら「500ペイン」と答えた。みかんの相場はわからないけど一個あたり100円いかないくらいだろう。と考えると大体、5ペインが1円相当か?


「この中で一番安いのは?」

「あんた文字読めないのかい?」

「学がないもんで」

「学って異国の人でしょアンタ」

「ミランジが一番安いわ。それで、買うわけ?」

「冷やかしなら許さないわよ」


 日本円はあるけど使えるわけないよな。ブレザーを見て異国の人って思われてるっぽいから、それにかこつけて逃げられないか。ここまで来て怒られるの嫌だよ。

 何で異世界転移してまで肝っ玉母ちゃんみたいな人に怒られなきゃいけないんだよ。高校でも食堂のおばちゃんにキレられてんのに。


「あはは、俺、この街のこと」

「何? 外人でも許さないよ」

「そ、そうですよねぇ。持ってますよ。持ってます」


 ゆっくり財布を出して、ゆっくりと中を見た。ペインなんて持ってるわけがない。俺が持ってるのは円だけだし、円もそこまで十分に持っているわけではない。

 別にこの場を乗り越えられるほどの異物を持っているわけでもないし、スマホは……等価交換には使えるだろうけど手離したくないな。でも、腹減っているし……背に腹はかえられない。


「おばちゃん。これ、スマホって言うんだけど」

「どう? 交換しない?」

「要らないわよ。外人から貰うアーティファクト怖すぎるわよ」


 まぁ、それもそうか。普通に考えてどこの馬の骨かもわからないやつから、金以外受け取りたくねぇよなぁ。でも、金ねぇしな。怒られたくねぇなぁ。


「おばちゃん。あたしが買うよ」

「ん? こいつのツレかい?」

「まぁ、そんなとこ。ほら、行くよ」


 急に入ってきた金髪のお姉さんがミカンを買って手を引いてきた。

 すっごい身長が高い女の人だ。恐らくは180cmは超えているが、耳は尖っていない。横から見て顔を見てみると美形で、オークっぽさとかの別種族感は少ない。普通のデカい女の人だ。


「ジロジロ見ないでくれ。嫌」

「ごめんなさい。みかん……えっと、ミランジ、ありがとうございました」

「金なかったんだろ。金がない時は素直に言うべきだぞ」

「そうですよねぇ。何で買ってくれたんすか?」

「教義だからだ。『金を持たぬ奇妙な格好の人を見たら助けるべし』、うちの連合の鉄則だ」


 何だその教義、具体的すぎる。


「あんた転移者だろ。うちの連合は転移者が作った」

「転移者は異能を持ち偉業を成すからな」


 異能、チートのことだろう。物語の主人公たちは転生・転移する時に神からチートを貰える。だが、俺の神様は何を話しているのかわからなかった。チートを貰えたのかもわからない。


「あ、そうだ。ステータスオープン」

「ステータスオープン?」


 ステータスもオープン出来ない。本格的に何のチートを持っているのかわからない。あの人、何喋ってたんだよ。翻訳機能つけてもう一回、話してくれよ。


「それで今はどこに向かってるんですか?」

「あぁ、連合だ。どうせ身寄りがないんだろ」

「連合って何ですか?」

「あぁ、それもか」


 それもかって何だよ。わかるわけねぇだろ。お前だって異国の地に放り込まれたら右も左もわからねぇくせに、そんな「この程度のこともわからないんですね。はぁ、めんど」みたいな顔をされても困るわ。


「魔法使い連合だ。魔法使いの大半が所属している組織で寮がある」

「転生者は1000年ぶりとかだが、連合長は長命種で先の転生者を知っている。お前もそこで詳しく知るといい」

「……さっきは嫌そうな顔をして悪かった。わからないのは当然だもんな」


 あ、めちゃくちゃいい人だ。こっちこそ、心の中で悪態ついてごめんね。腹減っているから、めちゃくちゃ腹立ったんだよ。

 いや、腹減ってるからって理由にならないよな。ミランジ買って貰ってるし、食べればいいだけなのに。


「これって食べ方とかあるんですか?」

「普通に食えばいいが……ミネルリ」


 ミランジに手をかざすと水色の光が放たれた。


「それは?」

「おまじないだ。効果のない魔法だがな」


 ミランジをみかんと同じように剥くと、みかんと同じようなオレンジ色の果肉が現れた。匂いもみかんと同じようないい匂い。

 一粒手に取って口の中に放り込んだ。


「あ、甘い」

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