第一章「聖者の漆黒」第二部「回顧」第2話
産まれてから、常に
小学校から高校を卒業するまでは、常に車での
同級生と遊びに行ったこともない。
少し体が
買い物がしたくても好きに歩き回ることも許されず、常に使用人が数名。
そんな日々の中で、当然のように友達はいない。
同級生は
高校を卒業してからは就職することもなく
それが
結婚相手は五歳年上の銀行員だった。他県とは言え、それなりの
そして、あまり会話の上手なタイプではない。
名前は先の
それが、
☆
「あれからどうよ」
ぶっきらぼうな
「たまにゆっくりと紅茶を楽しんでるのに……もう少し
この日の冷たい飲み物が紅茶になったのは麦茶のパックを切らしたから
「いつもコーヒーとビールばっかりの人が何言ってるのよ。たまには
「ファンデーションくらいはしてますよ。一応
「カバンの
「だって汗で崩れてくるし」
「安っぽいの使ってるからでしょ」
そんな、ある意味いつもの会話を、パソコン前の
「
「そうだよ」
「
「そうだった」
反射的に返した
「そうですよ。こんな朝に呼び出して……
「ジャーナリズムに昼も夜もないでしょ?」
今回は珍しく
とはいえ、今日は朝から汗の出る暑さ。陽差しも強く湿度も高い。排気ガスの巻き上がる出勤ラッシュの
それでも
──……だったら、
──…………ああ、そっか……分かった…………
「この間の〝
「一応まとめてはいますよ」
応えながらも、
「何よ。私があんなカッコ悪い思いしてまで頑張ったのにお
「実はですね……写真が……ちょっと……」
「ちょっと何よ」
「一枚しか
「は⁉︎」
「残りは全部真っ黒のデータばかりで────」
「何やってるのよ!」
続けたのは
「あんたプロなんでしょ⁉︎」
元々
「……分かってますよそんなこと。私だってやっと行けたんですから
自分の
正直、
「一枚だけって言ったけど……」
──……どうしてこんなに……気持ちが
「これです…………」
そして続ける。
「
望遠レンズで撮影したためか、中心となる一つの
「……
「やっぱりそんな感じですよね。
二人はしばらくの間、テーブルの上のタブレットを
ガラスではなく、
ただの
しかし一般的な左右対称の
「調べてみた?」
「
応えた
答えの出ないままの時間。
しかし、
──……どっかで……見てないかな…………これ……どっかで…………
記憶は深い
「何か分かったら教えて」
そう言った
「分かりました」
「まだあそこの話は終わってないよ……何も解決してない…………分からないことばかりだ…………」
「そうなんですよね。やっと行くことが出来たのに…………まだ、それだけなんですよね」
「でも……また行くことになるよ。いつかは分からないけど」
そう言う
いつものそんな
「その時はまたお願いしますね」
「お
「
「じゃあ今度一緒に探してよ」
その
しかし
そして聞こえてくるのは小さな声。
「……私が探しとく…………ネットで……」
「あ、うん……」
そんな
「
応えるのは溜息混じりの
「
そして視界に入った壁掛けのアナログ時計を見ながら続けた。
「まあ、そんなことより時間もあまりないから本題に移るけど、仕事一つ受けてよ」
「えー、いそがし────」
「──いわけないでしょ。そんなに難しい仕事じゃないと思うよ。いつもながらどこの出版社よりも
「まあ私の情報網のほうが個人情報の問題も
それは事実だった。
市役所に行ったところで他人の家の情報を調べられる時代ではない。しかしマスコミの情報網はネットの時代でも
そう言う点では、
それでも、だからこその強さを
「
この
「
「その家では何世代にも渡って一歳になる前の長男が亡くなっているってことらしいんだけど、過去に
「一歳になる前…………そうですか……」
素早く鞄から取り出したメモ帳にペンを走らせながら
「ま、
向かいで同じように笑みを浮かべた
「お
──……あれ? ……どっかで…………
「ならみざき……? どっかで見てますね……」
「まあ、珍しくはあるけど、どこかにはある
「……そうですね」
それでも
──…………だれだ…………
その
昨日の運転手の男性だった。昨日はガラス
「
何気なく聞いた
「
少し不思議に思いながらも、
「
「うん……」
いつもの会話。
それでも
それが何かは分からない。
──……不安……なの……? どうして……?
──…………この感覚は、なに…………?
☆
車で一時間と少し。
街中からはだいぶ離れた場所。
奥に山並みが見える細い道路に
やがて、その壁の一角が大きな門に繋がる。
──……さすが
もはやどのくらい前から壁が続いていたかも覚えてはいなかった。それでも、ずっと
門が開くと、左右には使用人が一人ずつ。深々と頭を下げている。
──……神社なら
入り口は
同時に人を
神社の産まれだからということもあるのだろうが、昔から大事にされてきたそんな考え方が
家に
──……この家は、その意味を理解してる…………
さすがに大きな
そうとしか表現の出来ない
使用人の一人が車のドアを開けたが、初めて見たかもしれないゴスロリ姿にも
──……ただの
「申し訳ございません。私がお
茶色の
家を流れる風に合わせたかのような
外の蒸し暑さに対して、どこかこの家の玄関先に嫌な湿度は感じなかった。エアコンの乾燥した冷たさとも違う。
総てのバランスが、適度だった。
「いえいえ」
笑顔で
「ここへお
もっとも、それは使用人にとっても同じこと。例え使用人とはいえ、長くも短くもこの世界で生きている。
「
その直後、大きく開け
そして聞こえる、
小さな、
「この時期にはいいですね。
「こちらでは常に下げていらっしゃるんですか?」
その光景が見えた。
「ええ、常に下げております」
応えた
「
「そうですね。そういう考えは地域によってもあるみたいですよ。かなり古くから、この国では身近な物だったんでしょうね…………」
──…………ふーん……面白い…………
通された
きっとこんな部屋がこの
やがて、
その音は
どちらも
部屋という空間に
さらには家の所々に配置された〝
〝
それでもその効果は
総てが考えられた上で、
──……なんだか……神社みたいだ…………
──…………後は
そんな印象だった。
その空気に
「
深々と頭を下げる
「いえ、こちらこそ
それでも
いきなりの〝
──……やっぱり
「お
「いつも勝手に出歩くなとは言い聞かせているのですが……しかも息子のこともありますので……何か用事があれば何人も使用人がおりますでしょうに……お
言いながら、
手に取れるかのような二人の
──………………
「その息子さんのため……だからこそですよ」
その
「話は一通りお聞きになられているご
「
そこに入り込むように、
「はい……
「────やめて下さい」
それは
「……お母様…………あの子は……
──…………え…………
続けて空気を
「
「それを……」
「……終わらせることが出来たら…………」
「
──…………この家の血は……真っ黒だ………………
「
「ええ…………
応える
「〝
「分かりません…………」
「私の母にも、その当時の
「しかも過去にお
「
──……この人だって……
「出来ますよ」
その
小さくその
「出来なければ…………私はここにはいません。出来るだろうなんて言い方はしません。私が
すると、
そこに
──……私は……希望など持ってはいけない…………
何度も思ってきたそんな同じ言葉が、不意に
それを包む
「あなたは何も嘘はついていません。あなたは本当に〝
「元々
そう言って
「
言い終わっても、
──……そうだよね…………いいよ……
そして、それは
〝 お待ちしておりました 〟
──…………! ……だれ…………?
どこかで聞いた声。
しかし、その声は続かない。
──……誰? 応えて…………
その
それがどこかは分からない。
丸い
中心と、左右に配置された
一般家庭にある
──………………
「一つ…………お
その言葉が続く。
「……こちらに……もしかして
なぜかそう思った。
そう感じた。そうとしか表現のしようがない。
例えどんなに歴史の長い
それでも強く感じた。
──……ここには……
突然の想像だにしない
口を開いたのは
「……
「どこ? 見せてください」
それを
「
やがて
そこにその〝
先ほど頭に浮かんだ光景。
──…………
間違いない。あそこほどに古さを感じさせるわけではない。人の
「……これは…………何…………?」
背後に追い付いた
「これは間違いなく
すると
「古くからある物だそうで、
──……だから神社のようだって感じたんだ…………
──…………どう
──……やっぱり
それでも今、
〝
昨日、
過去を
だからこそ、今回のことも〝
決して
その総てを〝
そしてふと思い出す。
「……
「はい…………
──……そういう……ことか…………
「一度戻ります。色々と調べたいので」
そして
そこには
しかし、今は時間が欲しい。
そして
「私が総てをお受けします……だから…………一つだけ、お願い出来ませんか?」
「娘さんのことです」
さらに続く
「たまには……自由にってわけにはいかなくても、外に出して上げて下さい。昨日の運転手さんでしたら、
──……〝初めて〟好きになった人だもんね…………
──……
──…………父親が誰であれ、子供は子供……でも聞かれたくなかったよね…………
ゆっくりと、
その
☆
静かな夜になった。
夕食の時、
空気と時間が
先に
立ち上がる音が空気を切り裂いた。
そして、一言だけだった。
「
時間が
気持ちは、あの時からずっと落ち着かない。
誰もが
──……どうして……
──……
──……
──…………
それでも、時間が止まったような感覚が
どれだけの時間が
待っていたはずなのに、なぜか
──…………
「〝
背後からの
続く、
そして、
朝。
結局、何も聞けないままに身を
朝の
──……まさか……
それは
──…………
夜、
今夜、
「
その言葉は
正面に座る
その声は決して
「……
「
「冷静になりなさい……
──……まさか
「
目を
「……
「何を……私が
言葉を返しながらも、
今回のことで、
それはもはや〝
その感覚が
「…………私は…………
共に
──……
二人は、すでに〝
その夜から、
当然、自分を一歩も部屋に入れようとしない
──……
☆
それから
「
その
少なくとも、その正面に座る
そして、
深夜。
部屋には一本の
「……
相変わらず
「
それだけ返し、
それに
「
「未来が……存在しないとしたら…………」
その冷静なままの
「何を申すか────」
「
それを〝受け入れる〟可能性を、無意識に
それなのに、
「私は元々、ここを
──…………負ける………………
そう感じた。
──……これが……
もしかしたら、それは今でも変わらないのかもしれない。
しかしその
──……
「
──……これは〝
そして
──……目の、色が…………
しかも、右目より左目のほうが赤く見えた。
──……暗いからか……
──…………人では無い…………〝
〜 あずさみこの
第二部「
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