第一章「聖者の漆黒」第二部「回顧」第1話
西暦にして一四六八年。
それは
そんな戦乱がいくつもの地で続いていた。
もはや何が
日々聞こえてくる話には、その先の
そんな時代の波の中。
とある地方。
小さな神社があった。
歴史は長い。
元は
〝力〟の強い
〝
森の中に
人里離れ、知らぬ者が
この頃まで時が流れ、すでに
当主は
三姉妹の長女だった。
娘はやはり三人。
長女、
次女、
三女、
すでに誰の頭の中でも次の
しかし、誰もが当主の座を欲しがっていると思っているのは長女の
そんな中、そんな
それは、ある人物と〝組織〟の
最初に広まった名前。
〝
戦乱の世を
中心になっていたのは地方の小さな
やがて
〝
そして────〝
もちろん反発する声はあった。
「その……
母の
「────
「それを真実とする確証は────?」
「では母上は────」
「話が嘘とした場合…………多くの
その口元から目を離せないまま、
──……
「
「
自信を
「……危険な思想です…………」
「
対する
「母上……私は
「
その
風の無い夜。
真夏の蒸し暑さも過ぎた頃。
「……
その言葉に、
口を開いたのは、その片足に力を込めた
「……そのような……まるで
「
「その思想そのものが
僅かに
──……〝
以前より、確かに
時代は大きく変化していた。
長く続く日々の戦乱の中で、
変化に未来を見る者もいれば、その変化を受け入れられない者もいる。
それまでの時代に
しかし、次女の
しかし、それを
そして母である
しかし信じるに
翌日、
本殿の建物とは
家具と言える物は小さな
しかし幼い頃から
それに繋がるのか、
当然のように世間の
何より、自分に関係の無いことには関心が無い。周囲の人間が自分をどう評価しているのかなど、
そんな
もしも真実が
だからこそ、
〝
「
「そうですね…………」
「それは、どちらを選択するのか、ということでしょうか…………もしくは
相変わらず無駄を嫌う
「そうですね…………」
それだけ言うと、向かいに座る
ゆっくりと部屋に入り込む空気の温度も僅かに下がり始めていることを感じた。
そして
「
嘘では無かった。だからこそ信じた。それはすでに
そしてそのことは、他人に興味の無い
その二人の関係がありながら、
そんな
「
その言葉に、
視界に再び入る
──……
「この話は……また
目線を外す理由には丁度いい。
しかし、そこに僅かながら〝
その夜、遅く。
広く、神社の後継者としては申し分無い。
時々、遅い時間、
その姿のまま、
部屋の中の
その炎が頼り無げな
空気の揺らめきに合わせて
二人の間の空気を震わせたのは、
「……それで……
僅かに腰を浮かせ、
「…………
「ほう…………」
すぐに帰ってきた
「それは、
「かもしれません……」
「でも…………」
「……
「そんなことは…………
その言葉は、
「……
「しかし、母上は────」
「
左の
──…………
体の中で、何かが波打つ。
いつも
「……
──……
その心を
「心配はいりませんよ……
しかし、
──……
その気持ちを
それから、
本殿の建物。
祭壇のある広い
女だけで回される神社。
朝の
その朝も、いつもと同じはずだった。
しかし
「母上」
その小さな
そしてそれを見届けるようにして、
「……これからのことですが、
その言葉に、
「そろそろ…………
不思議なもので、目に見えない空気が変わる。
その流れの中で
「出来るだけ若い内のほうがよろしいでしょう…………すでに
時代的に事実でもある。
同時に、
しかし
黙って
それを
「
「
意外にも
「
「そうですか……」
応えながらも、
それでも
「……なるほど…………」
その、小さく、
その声の小ささに、空気に広がるのは〝不安〟。
誰の中の
その音がやけに大きく響く。
しかし、次に続く
「夕刻の
三人が同時に腰を引いた。
すぐに頭を下げ、続くのは
それだけ。
陽の光が高く昇り、傾き始めた頃、その日の〝
相談の主は
本人
〝
〝
それから更に
「あれから、
祭壇の前、背後の
「……もちろんだ…………毎晩だ…………早く何とかしてもらえぬものか」
確かに、
しかし〝
その三姉妹は
その
「奇妙ですね」
「奇妙?」
反射的に返していた
「はい……奇妙です」
その
熱を
背中でそれを感じるのか、
「……ほら」
しかし、次の声は強さを
「
聞こえるのは、
「〝
「────何を申すかっ!」
しかし、それを
「
「何を────!」
「娘の
そう言う
「
そして何人もの
少しずつその音が小さくなっていく。
やがて、静かになった。
そして、本殿の空気を最初に
「……いい経験となりましたね。〝
気持ちを落ち着けた
その
「
突然の問いに、
「まさか……そのような…………」
その言葉を受け、
それは
決して大きくはない、それでいて通る
「…………
並ぶ三人の中心にいる
人が創り出すもの。
言葉と行動によって生み出されるもの。
☆
暑い日が続いていた。
この日の
しかし戻った
「そんなゴスロリなんか着てるから暑いんじゃない?」
そう言いながら、エアコンの風を感じるかのようにソファーに寝転がった
体を素早く起こしながら
「これでも夏仕様なんだよ」
「まったく違いが分からないけど」
パソコンの事務机に戻りながら
「
「でも暑いんでしょ?」
返しながら
「今日なら下着姿だって暑いよ」
「そのほうが見た目は
「そういう趣味あったの?」
「同性の下着姿に興味はないよ」
「良かった」
「で? 今日の仕事はどうだったの?」
強引に
お互いに異性との出会いがある生活ではない。出勤とは言ってもアパートの隣の建物。日々の中で異性に関わるのは毎日通う一階のコンビニくらいのもの。そういう点では
しかし
──……彼氏が出来れば変わるのかなあ…………
そんなことを
でもあまり
──……ただの人見知りだとは思うけど…………
「なんだか今日もスッキリしない仕事だったなあ……本人が勝手に
「結局はなんだったの?」
「結局ねえ……心霊現象と思われる
「
「顔は
その
「そっか……」
小さく応える
その
「
「違うよ」
返事は早い。
しかし
長い黒髪のストレート。その髪を指でズラしたい
それでも、なぜかいつも
──……私も、彼氏作ったほうがいいのかもね…………
毎日、
朝食をどちらかの部屋で一緒に食べ、夜に仕事がない限り夕飯も一緒に部屋で。寝る時以外はいつも一緒に時間を過ごしていた。何度かは同じ
それでも寝るだけ。それ以上の関係になることはない。しかし
どう応えたらいいのか、
それはやはり、今でも分からない。
──……今夜は何食べよっかな…………
そんな
「────はい、
いつもの
しかし次の
「────え? これからですか⁉︎」
受話器に向けて声を上げた
──…………黒い……
「いいよ」
口元に小さく笑みを
「今日はもう
「……大丈夫です。お時間は────はい。二時ですね?」
言いながら
「オッケー」
「……では二時にお待ちしております……はい、失礼します」
受話器を置いた
「お昼ご飯食べる時間はあるね。下で何か買ってくるけど、今日はもう仕事入れないで。それと……夕ご飯は一緒に食べられるから心配しないこと。なんにするか考えておいてね」
「あ……うん…………」
小さく返しながら、
☆
黒基調ではあるが細かな装飾を
そんな
〝安い仕事〟ではないことが、その人物の立ち振る舞いからも伝わる。
髪は後頭部で
「すいません、遅くなってしまって……近くの駐車場を探していたものですから」
そう言いながらも、その女性が相談所を訪れたのは二時を少し回った頃。
しかし
麦茶をテーブルに置きながらも、
──……
入り口の外には運転手と思われる中年の男性。二枚のガラス扉の向こうに黒いスーツ姿が見えている。
「お付きの
「ドライバーさんですか? 外暑いですし、良かったら中で…………」
「いえ……あまり聞かれたくない話ですので…………」
──……車で待たずに……まるでボディーガードだ…………
「
「はい」
「
──……オッドアイか……珍しい…………
正確には〝
右目は薄い茶色。
左目は明るく感じるほどの赤。
目だけを見れば日本人ではないと思われるほどだろう。
そんな
「構いません。そもそも……その〝家〟のことですので……」
「そうですか」
──……やっぱりそうか…………
そう思った
そしていつものように会話を続けていく。
「最初にお聞きしたいのですが、ここのことはどちらでお知りになりました? ウチはまだネット広告とかも出してませんし……」
「去年、テレビで
確かに〝
「それと…………」
しかし、そう言いかけた
「こんなこと……お笑いになるかもしれませんが…………夢で、ここを
「夢?」
反射的に返しながらも、
「はい……神社の、いわゆる
「なるほど、
言いながらも、
──……まだ見えないなあ…………
何かに遮られているかのような感覚だった。
──……この仕事…………
嫌な感覚でもある。
それに意識を集中させ過ぎたのか、次の
「それにしてもなかなかユニークな
「目立ったほうが仕事になりますからね。私はそれこそ神社の産まれでして……でもだからと言って
しかし
「
「よくご存知ですね。普通に
「私の所も隣町とはいえ古い
──……なるほど……
「そんな歴史の長い
「〝
急に
そんな変化で
「……本当にあることなのでしょうか…………?」
だから
しかしそんな
──……両目の色が違うだけでこんなに気持ちを読みにくいなんてね…………
──…………でも…………
僅かに〝
そこに
「んー…………例えば幽霊なんかだと、そんなものがいるかどうかなんて……そんなものは、生きてる我々には判別なんか出来ません」
そんな
それもそうだろう。仮にもここは心霊相談所。心霊現象に
「でも…………〝
「では…………」
グラスの周囲に張り付いた大粒の水滴が、周囲の水滴を巻き込みながらコースターへ不規則に吸い込まれていく
その言葉は、僅かに
「
それに応える
「対象は個人、家族、もしくは家…………それとも
──……土地じゃないな…………
「だいぶ昔からのようですが……いつからかは分かりませんが…………
「いつも
──…………なるほど……
「しかし、一年を
──……そういうことか…………
「それは古くから……
「……
そして、事実として
──……やっぱり…………黒いなあ…………
「今…………息子さんがいらっしゃいますね?」
そして顔を
それを
「息子さんがいるのは気が付いていました。
「…………はい……」
消え入りそうな小さな
反射的に体が動いていた。
自分が絶対に手に入れることの出来ないもの。
しかし、求めてはいた。
そんな感情が
やがて小さく聞こえてきた
「お受けしますよ……
顔を上げた
「…………では…………」
「明日、午前一〇時に
「では…………受けて頂けるのですね…………」
すると、
「私は解決の出来ない
その自信に満ちた目は、ソファーの横で
──……私は…………この目を信じてきたんだ…………
ほどなく、深々と頭を下げ、
「
振り返ると、そこにはゴスロリ姿の
「その目の色……いつからですか? 先天的じゃないですね」
予想外な質問に、
「一年……ほど前だったと思います。別に痛みはありませんし、医者も理由は分からないと申してまして……」
──…………一年…………
「そうですか……すいません。珍しいなって思って、それだけです」
ガラスの向こうではスーツの男性が深々と
「ん?」
突然のことに
「……気を付けてね」
「うん…………」
──……そっか……私にも見えていない部分があるみたいだね…………
〜 あずさみこの
第二部「
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