序章:隠居魔法士と???の森歩き

 ある森の中

「なるほどなるほど」

 としわしわの肌をもつ今にも息絶えそうな爺さんがわざとらしく呟いている

「なにかあったのかよ、じいさん」

「なに、だいぶ昔に人の住んでたような形跡を見つけてな」

「へぇ、人の住んでた跡ね」

「どんくらい前か正確には分からないが、これ程まで建材用の石が出てくるということは国かなにかがあったのかもしれんな」

 人の住んでた跡...建材用の石?そういえば500年程度前に、ここは壮麗な国があったような記憶がある。

あまりに綺麗だったのでもう一度観に行こうとしたところ、近くに住み着いていた獣種かわいい白猫が滅ぼしてしまっていたので殺して帰った気がする。

その国かと思い口にしてみることにした。

「確かに500年前、この辺りには小さな国があったはずだ」

「ほう、どんな国があったか教えてくれんか」

朧気な記憶を呼び覚ましながら答える

「いい国であったように思う、景観はとても綺麗で水も澄んでいた、あの時代にしては珍しく精霊種エレメンタル亜人種デミヒューマンとの繋がりが強かったはずだ。」

「そうか…そのようにいい国であれば無闇に焼き払われるということはあるまい、戦争の最中に巻き込まれたとしても。精霊種などが守るはずじゃ、お主の言っていた獣種が魔法を使うとなると力は相当あれどそれに見合う知性も持ち合わせていたはず。当時の人類種ヒューマンは非力で気に掛けられることもほとんど無かったというのに。よっぽど気に障る何かがあったのかもしれんのぉ」


 気に障る何か、か...そういえば先程から子供の精霊種どもがやけにうるさい。

危機を知らせるというよりは何かを見せたいような騒がしさだが、俺だけで行く訳にもいかないので尋ねてみることにした。


「おい爺さん、考えてるとこですまないけどよ」

「なにかね」

「精霊種どもがやけに騒がしい、どちらかというと見て欲しいものがあるように感じる騒ぎ方だから、何か解決して欲しい問題があるかもしれない。それならそれで解決しておいた方が安全に暮らせそうだぞ」

「ほーう、精霊種がこちらに語りかけるだけでなく見て欲しいものがあると、余程のものかもしれんから一応確かめにいくとしようか」


簡潔に行くという意図を精霊に伝える。


「見に行くんだとよ、案内してくれ」




そうして精霊の後を辿り、到着した先にあったのはただの特筆すべき点など無いような大樹だけだった。


「ほー、これはこれは立派な木じゃの」


 爺さんはそういうが俺は少しガッカリだ。


「思ったより普遍的なものを見せびらかされただけだな、樹木精霊ドライアドどもめ」

「まぁまぁ、何事もなさそうなんじゃから安心したわい。」

「ただ自慢されただけだって俺の主張は完全無視かよ」

「そういうでない、精霊種たちにとって雄大な自然の創造物は全て特別なんじゃからな」


この爺さんがそういうならまぁそういうもんなんだろうと割り切って、取り敢えずクルッと一周してみるとしよう。


「そうかよ、ほんじゃ理解出来るように少し見て回ってくるとするよ」

「素直なお供で助かるよ」

「だれがお供だ、とって喰うぞジジイ」

「やーんおじじ怖いわー」

「はん、どうだかね」


会話もほどほどに俺は木の周りを見て回る、そこでふと違和感のある樹皮を見つけたので反対側にいる爺さんに、少し声を大きくして伺いをたてる。


「おいじいさん、この木のここの表面、すこしずれてないか?」


どれどれ、と爺さんはこっちにやってくる


「確かにな、自然にこうなるとは思えん、魔法で何かを隠しているのであろうが時が経って綻んできたのかの」

「まぁおおよそ、樹木精霊たちに力を貸してもらって、ここに何かを隠したとかが正解そうだが」

「ふぅむしかし精霊種、しかも基本無干渉を貫く樹木精霊達が人類種に協力までするほど、長年隠し通したいものなぞなんなのか検討もつかんな」

「まぁ案外取りに来るのを忘れてたか、精霊種の発動した封術の解除に魔力量が及ばなくて取り出せなかったか、そんな感じだろうけどな」

「うむ、考えても分からんものは分からん。とりあえず樹木精霊たちにここに何があるのか問うてみてもらえるかの?」

「はいよ、おい、そこの長生きしてそうな樹木精霊」


声をかけられた樹木精霊の一人は、まるで亜人種のエルフみたいに尖った耳をピクリとさせて言葉を返す。


「そんなに歳が老けて見えますか?これでもまだ800年しか生きてませんよ?」

「精霊種にしちゃあ確かに若いが、この中だと最年長だろ?あの獣種に森をかなり痛めつけられたんだ、その修復の為に帰化の魔法を大部分の樹木精霊たちが使った筈だからな」

「えぇ、たしかに最年長ではありますが言い方が悪いですね、長生きしてそうなとか、お前老けて見えるぞみたいな意味で聞こえますよ?」


こいつらこーいうとこ面倒臭いよな、人間種《ヒューマン

》に懐きすぎて思考まで似通ってきてやがる。


「わかったよ、それについては詫びよう。そんで、聞きたいこと聞いてもいいか?」

「はぁ、なぜ貴女方の種族はそうも傲慢な方たちが多いのでしょうね」

「それは俺も聞きたい疑問だ、俺らの種族はどいつもこいつも血の気が多くて、喧嘩が絶えないしうるせぇんだよなぁ」

「あなたがそれをいいますか」

「まぁ、性分として諦めてくれ、ほんで聞きたいことだけどよ「ここに何が入ってる」か」

「ですよね?」

「あぁ、話が早くて...っていうかすぐ傍で聞いてたんだからそりゃ早いもクソもだよな、聞かせてもらっても構わないんだろ?」

「まぁ、もう隠すことも無いですしね...その木の中には人間が眠っています」

「はぁ?人間だ...?んでこんな所に、そもそも生きてんのか本当に」


人間...それがほんとなら500年も前からこの中にずっと閉じ込められっぱなしってわけだ...生きていても精神状態が危ういが...


「生きてはいますよ、あなたの口振りを聞く限り、知ってそうなのでバラしてしまいますが、あの滅ぼされた小国の王族...その血を継ぐ十二歳くらいの女の子です」

「マジかよ...だってよ爺さん」


俺は急な情報に困惑して、ずっと黙って話を聞いてた爺さんに話を振った。


「わしも長く生きてきたが、こんな事は初めてじゃ...わしにもどうするのが正解なのか検討もつかん...」

「そうだよな...とりあえず樹木精霊、生きているのなら流石にこんな所に閉じ込めておくのは可哀想だからどしてやりたいんだが、いいか?」

「えぇ、勿論いいですよ、私たちの契約内容は私たちが信を置けると思った者にこの子を託す事でしたので」

「...ということだが、爺さんどうするよ」

「...あ、え、まぁ、引き取る?すこしだけ待っててくれんか...」


あ、ダメだこれ、珍しく爺さんが本当に困ってる。まぁ、それもそうだよなぁ...いきなり12歳の女の子を引き取るなんて話になりゃいくら爺さんでも、根は普通の人類種なんだから混乱もする。


「う、うむ、結論から言うと、引き取ることには賛成じゃ...とりあえず封術を解くことにしよう...それからの事はその後で考えればいい...」

「そんな訳らしい、頼んでいいか?」

「まぁ、少し不安が残る感じがしますが、良いでしょう。ただし、魔力をお貸ししていただけます?あの化け物からこの木だけは守る為に私たちが十人がかりで封印したので、私一人の魔力では到底足りないんです」


どんだけこいつらあの国を好いてたんだかな、俺にはあんまり分からないがその辺はボチボチ分かるようになればいい。


「いいぜ、いくら使っても枯れるもんじゃないしな、もってけもってけ」

そういって手を肩に乗せて魔力を流す。

「では、いきます。足跡は残らず...霧の森、記憶は残らず...暗き森、辿れよ辿れこの道を、導くは我、辿るは汝、踏み外せば戻れぬ深い森に汝の秘密を一つ置いて、軽い足取りで家路について振り返らずに帰るといい。ディープフォレスト道標エイン解除リリース!」


あぁ、なんとも見事な解呪魔法と封術だ、初めてみる魔法というのはいつでも心が踊る。しかも解除風景まで見れるなんて、今日はついてるな。改めて考えると、やはり精霊種の魔法親和性は恐ろしい、こんなとんでもない魔法をたった十数人で作り出すのだから。

閑話休題それはさておき、人間が入っているという木の中を覗いてみると。


「これは...驚いたな。本当に人が中にいるのかよ...」


そこに眠っていたのは勿忘草色の長い髪を携えて、新品同様の綺麗な空色のワンピースに身を包んでいるすこし抜けてそうな顔の小さな女だった。






ご挨拶が遅れてすみません!序章第二話まで読んでくれてありがとうございます!

百合百合しだす迄に、案外時間がかかってしまいそうなのを先にお詫びさせて下さい...

下書きはかなり溜まってるのですが、如何せん語彙が拙いために少しずつ訂正や変更を重ねている為かなり更新が遅く、不定期になることが多くあると思います。

自分の読みたい百合と書いてみたい魔法を書くことが目標な為ほそぼそと続けてまいりますので読んであげようむふふ...くらいの気持ちで待っててください!ではこれからもよろしくお願いします!

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