第2話 彼女は
あれは私が臨床心理士になって2年目の春の頃であった。少し肌寒く、それでいて桜がチラホラ咲き始めるなんとも心乱れる時期であった。私は新しい患者を担当することになる。カルテには基礎情報はあったが、主訴はなぜか抜けていた。そして、一枚の写真が貼り付けられていた。そこには一人の女性が写っていた。彼女は肌が青白く見るからに血色が悪そうであり、ガリガリに痩せ細っていた。髪の毛は白髪交じりで、その目に精気は一切感じられなかった。私はその写真と彼女の基礎情報を見て頭の中が白く溶け落ちるような衝撃を感じ。たこの情報がどうか嘘であってはくれないかと、私は心の底からそう願いながら、彼女との対面を待つことになった。
彼女との対面時、私は皮肉にも人の心を扱う立場にも関わらず、自分の心すらまともにコントロールできずにいた。心臓は強く鼓動を打ち、今にも私の体内から飛び出しそうであった。そして、彼女は私のカウンセリングルームにやってきた。車椅子を付き添いの介助の人に押してもらいながら、入ってくる彼女からはただただ暗いオーラが漂っていた。私と真正面に位置してようやく、私の顔を彼女は見てくるのであった。とても気まずい気持ちで一杯であった。弱々しくか細い声で「先生、こんにちは。よろしくおねがいいたします」と礼儀正しい態度で私に彼女は挨拶をしてきた。やはりそうか、、、、やはりこの人は、、、、私がこの患者に会う前に抱いていた疑念がここで確信に変わった。私の目の前にいるこの女性は私の小学校の時のスクールカウンセラーだったみちこ先生だったのだ。カルテを見た時に名前を見て、すぐにピンときた。しかし、写真に写る彼女と私が持つ視覚記憶に大きな乖離がっあった。故に心の何処かで私は彼女を先生ではないはずだと思っていたのだ、いやそう思いたかっただけかもしれない。
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