第6話 障害

康孝がアートスクール大宮を辞めて、しばらく、果歩は教室の皆から好奇の目で見られていた。

また、今年の埼玉県展に出すはずの作品が台無しになってしまったのは、悔しいので、全日本アートサロン絵画大賞展という六本木の国立新美術館で毎回開催されているコンクールに作品を出すために油絵を描き始めた。

絵は、今までの悔しかった人生を埋めるわたしの生きがいだ。

無駄にはしたくない。

高橋先生も退職して、違う先生が教室の担当になった。

高橋先生は、自分も性的マイノリティーというだけあり、わたしの障害に理解があったので、今回のことはとても残念だった。

しかし、ゲイならではの事件。

男が男を好きになるゲイならではの。。。


康孝はアートスクール大宮があるときはいつもの喫茶店で待ってくれていた。

一週間あった出来事を話す。

ただ、それだけの高校生の交際の延長だ。

そもそも、康孝にはもう恋愛する気がないのだろうか?

ふと、果歩の胸をよぎる。

結婚はもうこりごりといっていた。

このまま、友達として終わっていくのだろうか?


そんなこんなしているうちにジャズ喫茶でのライブが近づいてきた。

「果歩、来てくれるよね」

「うん」

「会わせたい人がいるんだ。絶対にきてくれ。頼む」

「楽しみにしてるって」

いつの間にか家と会社との往復の日々に彩が増してきていることに果歩は嬉しい気持ちでいた。


その日は土曜日の夜だった。

ジャズ喫茶は、沢山の客で一杯だった。

お酒の飲めない果歩は一人オレンジジュースを飲んでいた。

すると、康孝が二人の若い女の子を連れて近づいてきた。

「何?パパ、この人が新しいお母さん?」

まだ、20前後の女の子がいう。

「また、浮気されるんじゃないの?あたし、ママのことがあって以来、お母さんって信用できないの。どんな人がなっても」

20代後半の女性がいう。

「こらこら、自己紹介もせず、いきなりその態度はないだろう」

「柏木みゆです」

「柏木さらです」

果歩は驚いて挨拶ができなかった。

「驚いただろうな。娘たちをいきなり会わせてしまって。すまん」

「結婚は反対よ。財産この人にもっていかれるの嫌!」

みゆという長女らしい女性が暗闇の中に消えていった。

「わたしもママはママよ」

さらという二女もそれに続いて消えていった。

「果歩、ごめんな。いきなり嫌な思いさせてしまって。結婚はこりごりと思ってたんだが、果歩と会っているうちに、どうしても、果歩と暮らしたくなってしまってな。娘たちと会わせたかったんだ。本当にごめん。嫌な思いさせて」

「いいのよ。そこまで考えていてくれてたなんて嬉しい。それだけでも十分幸せよ」

「この曲の後、俺たちのバンドの演奏なんだ。聞いてくれ」


康孝の歌うジャズの音色は、その日の果歩には、何とも言えず、突然の出来事と突然の康孝の暮らしたいという言葉で、深く果歩の胸に焼き付いた。

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