第7話 未来
「ドライブに行かないか?もう高校生の頃の俺たちとは違う」
5月の初夏に有休を使って、伊豆半島にドライブしに行った。
果歩は大学のテニスサークル以来、ドライブをしていなかった。
空は青い海も青い。
空気もきれいだし、食事もおいしい。
「宿を取ってるんだ。いいだろう?」
果歩は戸惑った。
自分が高齢処女だということがコンプレックスであり、また、康孝を満足させることができるかとそれだけが不安だった。
一生、処女のままだと思っていたから、心の準備もできていない。
その夜は、そのことを素直に康孝に告げて、康孝の胸に任せて眠った。
一夜明け、埼玉に帰る車の中でだった。
「俺たち、茶飲み友達にならないか?」
「茶飲み友達?とっくの昔になっているじゃない」
「そういうのとは違う。俺が言いたいのは・・・」
黙って、康孝は前を向いて運転している。
「この間、娘たちに会わせただろう?娘たちが理解してくれれば結婚を考えていた。でも、大きくなっても、違う人間が親になるのは嫌なのだろう。それに果歩も初婚でこぶつきはいやだろう」
果歩は黙っていた。
「籍を入れない同棲だ。家のほかにアパートを一件借りるよ。果歩も両親の面倒があるだろうから、お互い、アパートと家を往復しながら、同棲しよう。人生のパートナーだ」
「障害者でもいいの?」
「関係ないよ。そんなこと。ただ、もう果歩には悲しい思いをさせたくない」
果歩は嬉しいやら戸惑いやらで黙っていた。
「俺たちの第二の青春さ。新しい未来だよ。もう一度やり直そう」
太陽が海に反射してキラキラしている。
果歩の眼にはそれはまぶしく見えた。
康孝が窓を自動で開けると潮風が果歩の髪を揺らした。
どんな形であれ、わたしも幸せになっていいのかもしれない。
青い海が輝いて見えた。
幸せになりたい 藤間詩織 @reonrie52
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