第5話 嫉妬

翌週、アートスクール大宮に行ったら、キャンバスの裏に「ブス!」と書いてあった。

次の週もアートスクール大宮に行ったら、今度は絵の具箱の中に「ばばあ!」という紙が入ってあった。

次の週もアートスクール大宮に行ったら、今度は果歩が座る席がなくなっていた。

さすがにこれは我慢がならなくて、教室の後、康孝に相談してみた。

「もしかして、考えたくはないが高橋先生じゃないだろうな。ゲイって、底意地悪いんだよ。新宿二丁目で遊んだことあるからよくわかっている」

「康孝のことで男に嫉妬されるの?そんなの生まれて初めてだわ」

「俺も初めてだよ。だけど、それ以外考えられないよな」

「あらー!康孝さんと小菅さんじゃないの!どうしたの?偶然ね。お教室が終わってもこうしてあっているの?ちょっと、仲良すぎるんじゃない?お教室の皆さんも二人の様子で、気を使っている方がほとんどよ」

気が付くと、高橋先生が立っていた。

「ねえ、なんで、小菅さんだけにバンドのチケット渡して、あたくしにはくれないの?あたくし、これでも康孝さんの講師なのよ。一生懸命尽くしているじゃない。それなのに、こんなおばさんなんか相手にして」

「おばさんは言いすぎなんじゃないですか?それをいうならば俺もおじさんです」

康孝は怒った口調で高橋先生に怒鳴った。

「ひっどーい!ひどすぎる!あたくし帰ります」

高橋先生は踵を返すとさっさと出口に向かっていった。

「俺たちがここで会っていること知ってたのかな?」

「さー、わからない。わたし、あの先生、わたしの障害を理解してくれるから、アートスクール大宮に通ってるんだけどね。男が間に入るとこうも変わっちゃうのね。なんか笑えるわ」

果歩と康孝はいつしか声をあげて笑っていた。


次の週、アートスクール大宮に行った。

果歩の埼玉県展に出す50号のキャンバスがナイフで滅多切りにされていた。

さすがにこれには果歩も腹が立ち、事務所の職員に相談した。

「高橋先生がなさったという証拠はございませんので、こちらといたしてもどうしていいか。誠にすみません」

このことは教室中話題で持ちきりになった。

遅れて入ってきた康孝は事情を知ると、高橋先生の方に歩み寄り、大きな声で怒鳴った。

「俺は男は好きじゃないんだよ。性格ゲス!気持ち悪いんだよ。さっさと男だらけの新宿二丁目に行っちゃえよ!」

「康孝さん酷い。あたくし、この恨み忘れないわよ。傷つきました。ひどすぎる」

高橋先生はそういうと泣きながら、トイレから出てこなかった。


翌週、高橋先生の代理の先生が授業をした。

なんでも、高橋先生は自殺未遂をしたそうだと教室中に噂が飛び散った。

みんな果歩と康孝に好奇の視線を投げかける。

「参ったなー。ゲイに好かれて、ゲイを振ったら、自殺未遂かよ。俺の人生踏んだり蹴ったりだよ」

喫茶店で康孝はそういうと、康孝はその日を最後にアートスクール大宮を辞めてしまった。

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