第4話 30年
「ここは。。。」
康孝が果歩を連れて行った喫茶店とは、果歩が高校生の時バイトしていたコーヒーショップだった。
「まだ、あったの?ここ」
「よく、果歩がバイトが終わるのを待って、図書館に行ったよな」
懐かしい。
店長がとても怖い人で、どんくさい果歩はうまく仕事ができず、怒られてばかりいた。
それの愚痴を康孝に図書館までの道のりで聞いてもらったものだ。
「あの頃は、本当に純粋だったなー。受験だなんて言って別れちゃったけれどもごめんな。あの時。本当に東大に入りたかったんだ。すごく焦ってたんだ」
「でも、風の噂ではストレートで東大に入ったと聞いて安心してたのよ」
「果歩は、障害を負って一浪したと、はるかちゃんたちから聞いてたよ。心配して、大学合格した後電話したけれども家電つながらなかった。小田原に引っ越したんだってな。今は、どこに住んでるんだ?苗字も変わってないとすると一人か?」
「南与野に住んでる。両親とね」
「苦労したのか?」
「まあまあ」
「そうかー。あの時、別れないでいたらなー。でも、あの時、果歩と勉強していると果歩に手を出したくなって仕方なくて勉強に集中できなくなってたんだ。若さゆえの不器用さだな」
「康孝はエリートコースたどってるんでしょう?」
「銀行でそこそこの位に着いたんだけれどもな。でも、仕事仕事と仕事に集中してたら、女房に浮気されたんだよ。情けないよな。しかも、娘の家庭教師にだぜ。すったもんだで、離婚して、親権は俺がとって、今、25歳と20歳の娘と一緒に住んでいる。もう、結婚はこりごりだよ」
そうか、再会して、やったーと思っていたが、相手には相手の事情があるんだ。
ドラマのようにはいかない。
「アートスクール大宮はどうして急に?」
「果歩が美術部だったなとふと離婚した時思ってな。俺も絵を描いてみようかなと思っていたところに、水曜日ノー残業デーという規則が会社内で浸透し始めて、上司の俺から行動しないとと思って、水曜日に習い事しにアートスクール大宮を知ったんだ」
「これからも、水曜日来る?」
「あのゲイには困るけれども、果歩に会えるんだったら楽しみだな。教室の後はここの喫茶店でお茶すればいいし」
「高橋先生喜ぶわよ。男の人、みんな違う曜日に変えていっちゃうんだから」
「あー、そうだ、果歩にチケットを渡しておくよ。まだバンド活動しているんだ。今は方向性変えて、ジャズに変わったけれどもね」
見ると、ジャズ喫茶の名前の入ったチケットだ。
「どうして、バリバリのロックからジャズに?」
「53年も生きているといろいろと変わるよ。俺は変わったけれども、果歩は相変わらず少女のようだな」
「康孝も誠実さは変わらないよ」
「ありがとう。もうそろそろ帰らないと娘たちが帰ってくる。また、来週」
「ありがとう。楽しかった」
康孝は伝票を取ると足早にレジに向かっていった。
果歩は懐かしい余韻と、娘たちという53歳ならではの親の姿を見せた康孝の今の近況を想いながら、残りのコーヒーを飲んでいた。
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