第3話

 結城愛奈さんは俺の事をじっと見つめてきている。

 まるで何かを期待しているかのように、じっと黙ってこちらを見つめ続けている。

 俺は――正直現実味が湧いてこなかった。

 ぶっちゃけ死に戻り能力があるという事を根拠にして今まで来るべき『非日常』に備えて体を鍛えたりしてきた。

 だけど、今の今まで半信半疑だったかと問われれば実際その通りなのだ。

 だって現実は極めて普通だったし、今の今まで異常事態に巻き込まれる事は一度としてなかったのだから。

 だから最近では「あれ、もしかしてこの世界って普通のありふれた世界なのでは?」と思い始めていたのだ。

 もう、気を緩めて日常を謳歌しても良いのではと、思い始めていたのだ。

 

 だと、言うのに。


「そう、か……」


 俺は頷く。

 なんにしても、俺は彼女の言葉を受け止めなくてはならない。

「付き合ってくれ」

 つまり、俺に「裏の世界へと足を踏み入れてくれ」という事だろう。

 なんて残酷な、だけど優しい言葉なのだろう。

 あくまでフィクションの話ではあるけれども、こういうのって強引に連れ去られていつの間にか物語の渦中に立たされている事が大半だからね。

 そういう意味で俺は極めてラッキーで、そして恵まれているとも言える。

 正直「なぜ俺なんかが?」と思いはする。

 どうして俺の「力」を知っているのだろうとも思う。

 だけど、だ。

 俺は、覚悟を決めた。


「ああ、ありがとう結城さん。こんな風に教えてくれた事、きっと凄い勇気を出しての事だと思う。俺に対してそう言葉にしてくれた事、感謝している」

「あ、っと」


 俺の言葉を聞き、彼女は何を思ったのだろう。

 どこか諦めたような、だけど「知っていた」みたいなそんな表情を浮かべていた。

 もしかして彼女は――俺が彼女の言葉を拒否するとでも思ったのだろうか?

 という事は、ああ、俺はきっと「今」ならば引き返せるのだろう。

 そしてまた退屈で刺激のない、だけどかけがえのない日常へと戻る事が出来る。

 だけど、俺は、頷いて見せる。

 自ら、裏の世界へと足を踏み入れる事を、決めたのだ――


「結城さん。俺は、貴方の言葉を受け入れる」

「――え?」


 一瞬、理解できないという表情を浮かべ。

 そして次の瞬間、ぱっと表情を明るくする結城さん。


「そ、それじゃあ……!」

「ああ」


 俺は再度首を縦に振った。


「例え世界が俺の敵になったとしても、例え魑魅魍魎の化け物が現れるのだとしても、俺は、それらに立ち向かってみせるよ」

「じゃ、じゃあ私達これから恋び――、……ん?」


 何か言いかけてたけど、まあいっか。

 俺は「にかっ」と笑って言う。


「これからよろしく!」

「え。う、うん。よろしく……?」

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死に戻り能力持っている所為でラブコメ世界をハードなバトルものだと勘違いしている奴がいる カラスバ @nodoguro

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