第2話
遂にこの時がやって来たという事だろう。
この世界の真実、一体どれほどの脅威が俺を待っているというのだろうかと思うと心臓が痛いほどにバクバクと鳴り始めるし、だから俺はごくりと生唾を飲み込みつつ何とかして呼吸を整えた。
すーはーと、深呼吸。
一度目を瞑って暗闇の先を見つめ、それから大きく「ふう」と息を吐く。
なんにしても、運命の時は近い。
まさか学校で真実というものを知る事になるとは思ってもみなかったけど、これはある意味運がいいとも言えるし運が悪いとも言える。
運が良いと言える点は、俺が思っているよりも規模が小さい可能性が出て来たという事だ。
相手が学校のルールに則って、放課後に来てほしいと言っている。
それはつまり相手にもこちらの事情を理解し慮るという意思があるという事である。
更に言うと、問答無用で世界観をぶつけて来ないという事はそこまで緊迫した状況ではない可能性がある。
そうであって欲しいという願望も込みだが、そうならば俺としても極めて助かった。
悪い点は、相手はこちらが学生として生きているという事を把握しているという事だろう。
更に言うと、俺という個人を呼び出しているという事。
もしかすると、俺が「死に戻り」の能力を持っているのを呼び出しの相手は知っているのかもしれない。
いや、俺は今までこの力を使った事はないので、相手はあくまで俺が「何らかの力を持っている」という事だけを知っているのかもしれない。
もしかしたら能力バトルで時々登場する「能力を知る事が出来る能力」を持っているのかもしれないが、どちらにせよ最低限こちらの事情を相手に把握されていると見た方が良いだろう。
なんにしても、である。
運命の時はやって来たのだ、だから俺も覚悟を決めて脅威に立ち向かわなくてはならない。
……そうと覚悟を決めれば時間の進みは早いもので、あっという間に時間は放課後になっていた。
生徒達は帰ったり部活動に向ったりと各々好き勝手に移動を開始している。
さあ、俺も行動を開始するべきだろう。
息を殺し、とはいえ怪しい様子を他人に見せないよう冷静さを保ちつつ、そそくさと移動。
そうやって学校の校舎裏へとやって来た訳だったが――そこには俺も想定していなかった人物がいた。
「あ、来てくれたんですね竜胆君」
「……っ」
そこにいたのはクラスメイトの女の子、結城愛奈さんだった。
いつも物腰が柔らかく丁寧で、みんなからとても信頼されている人。
教室で問題が発生すれば率先してそれの解決に協力している姿をよく見かけていた。
そんな彼女が、俺の目の前にいる。
そ、そんな。
……俺にとってある意味日常の象徴、大袈裟に言ってしまうとそのような存在である彼女が、まさか。
嘘、だろ……っ。
「あ、あはは……あの、ね。まずはごめんね? 急に呼び出しちゃって、それでも貴方に告白したい事があったから」
「……」
やは、り。
……黒、か。
つまり彼女は裏の世界の住人。
平和な日常に姿を潜めつつ、それでもどっぷりとその世界で暮らしている存在。
だ、だが落ち着け。
彼女はあくまで裏の世界の住人ってだけで、まだ悪の存在だとは限らない。
いわゆる「世界平和の為には貴方の力が必要です」と俺に協力を要請してくるパターンもあるだろう。
ど、どっちなんだろう。
「死に戻り」で出来る事なんてそれこそ突貫して情報収集しかないのですが。
「う。え、えとその。ま、待ってね……私も覚悟が必要だから、あの」
覚悟。
俺はその言葉を聞き、彼女が少なくとも悪人ではない事を確信した。
だって、彼女は俺に真実を告げる事を躊躇している。
それはつまり「俺に裏の世界へと足を踏み入れさせる」事に対して罪悪感を感じている事の証左なのだから。
だとしたら、と俺もまた覚悟を決めるべきなのかもしれない。
彼女は間違いなく悪人ではなく、そして俺はそのような人物から助けを請われたら見て見ぬふり出来るほど薄情な人間ではなかった。
勿論、俺の力はあってないようなものである。
死んでこいと言われたら絶対に拒否する。
だけど、彼女のその「光」とも呼べるかもしれない感情が見えたのならば、それならば。
「ああ、結城さん。貴方がどのような言葉を俺に告げるのだとしても、俺はちゃんと受け止めるよ」
俺の言葉を聞き、彼女は最初驚いて目を丸くしたが、しかしすぐに目を細めて「竜胆君は、優しいですね」としみじみ言葉を吐露した。
「そしてそんな貴方に対してこのような事を告げるのは少々恥ずかしいのですが」
「ああ」
「その……、っ」
彼女は。
一瞬の間。
そして、ゆっくりと開かれた口から、その言葉が告げられた。
「そ、その……付き合って、くれませんか……?」
裏世界からの勧誘キタ――――!!――!!
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