第84話

一葉side



「コラ、悪餓鬼」


「……」


「今何時だと思ってんだ」


「……」



ダッ!!



千架ちかーー!!」


「今何時だと思ってんだ、一葉。うるさいぞ」


「こっのっ」



脱兎の如く走り去る千架に怒鳴ろうとしたが、確かに今の時間で叫ぶのはマズい。


時間はもう午前零時を過ぎていて皆、寝静まっている。


見送る千架の後頭部にはあいも変わらずお気に入りの狐のお面が。


ああいうところは年相応、中学生らしいのだが。



夜中に街を彷徨うのはいただけない。


その理由が暴走族狩りなら尚の事。



幾度となく止めるも、いつの間にか姿が消えているのだ。


そういうところは父親にそっくりで……。



「ハァァー」


「一葉」


「千雪!!」



デッカイため息をついていると、名前を呼ばれた。



「あの子、帰ってきた?」


「ついさっき、ね」



振り返った先には一人の女性。



背中まである茶色の髪。


生気のない瞳に紫の唇。


痩せ細った体。



「寝てなくて大丈夫なのか?」


「今日は調子が良い」


「いやいやいや、どう見ても最悪な顔色してるよ」


「まぢか……」



己の顔に触れ千雪は項垂れる。



これまでに何度も命の危機に瀕しては、なんとか生き抜いてくれたこの女性は……


命がけの出産も乗り越えて今を生きてる千雪は……



千架の母親である。



「あの子と話しをしようと思ったんだけど」


「とりあえず、今日はアイツも寝たみたいだからお前も寝な」


「んー……。一葉」


「うん?」


「あの子が“ああ”なったのは、あたしのせいだな」


「千雪……」



力尽きて今にも倒れそうな千雪を抱き上げると、小さな呟きとともに彼女は意識を失った。

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