愛の塊 〜弱ってる僕に君の愛がなにより沁みわたる日〜

りょう

誰にも愛されなかった僕を愛してくれた貴方へ

ごく普通のサラリーマンである正木遼は年明けの仕事始めから3日目、風邪をひいてしまい体調がすぐれず、休みを取っていた。


《正月中、勇二といろんなところへ出掛けたから疲れたのかな…》


恋人の勇二には風邪引いたから今日は会社を休むよとラインをいれた。既読が着くとともに電話が鳴った。優しくていつも遼を気遣ってくれる勇二は電話口でとても心配してくれていた。


「正月休みにいろんなところへ出かけ過ぎたね…。初詣も並んでいた時とても寒かったから体が冷えたのかな…ごめんね遼」


勇二が謝ることなんてないのに。

同じように並んでいた勇二はとっても元気なんだから。事務仕事で座ってばかりな俺が運動不足なんだよ。



「一日寝てれば良くなると思うから気にしないで」


「気にするよ!しんどくない?食欲は?何か食べたいものある?」


勇二…俺の母親かよ…ってくらい世話を焼いてくれる。でも体調が悪いときは心も弱ってるから優しくされて嬉しくない訳ない。スマホの液晶画面が滲んでみえる。涙腺まで弱くなってしまってるようだ。



「ありがと…勇二。いつも優しいな。

今はあんまり食欲ないかも。体調悪い時は胃腸も弱ってるみたいでさ。ポカリ飲んでから少し寝るよ」


「分かった…、ゆっくり寝てたほうがいいね。起きてから何か食べたい物や飲みたいものあったら連絡してね。」


「仕事中に連絡したら邪魔になるだろ…」


「連絡ない方が心配になるから。起きたよ、とかご飯食べたよ、とかなんでもいいからラインして欲しいよ」


勇二の愛に俺の胸はぐっと熱くなる。

俺はいい歳になっても恋人がいなかった。ずっと寂しかった時間を可哀想に思った神様が、俺に与えてくれた贈り物のような人。こんなに俺だけを見つめてくれる人は他にいないだろう。勇二が居なくなってしまったら俺は寂しくて耐えられない。きっと絶対耐えられない。来世でも恋人が出来ない人生でもいい。また勇二に出逢えるなら。




「勇二… 大好きだよ…」



愛しさが溢れて言わずにはいられなかった。

電話口の向こう側が静かになる。



「俺も…大好きだ。遼がいない人生なんて俺は寂しくて耐えられない。」



自分の好きな人が、自分と同じ想いでいてくれる奇跡のような幸せ。これが当たり前じゃないことを遼は嫌と言うほど知っていた。



他の誰も俺に恋なんてしなかった。でも勇二がこれ以上ないってくらいまっすぐな愛をくれる。



勇二… あいしてるよ



映画の台詞のような言葉。恥ずかしくて日常で使うことなんて俺はほとんどない。

でも映画俳優のような容貌の勇二を見てると陳腐な言葉も笑わないで受け止めてくれる気がする。



「遼… あいしてるよ」



勇二が俺の心を読んだかのように言葉を紡ぐ。

違う…心を読まずとも勇二はいつだってまっすぐに想いを伝え続けてくれてた。

壊れることが分かってた同性の恋に絶望しながらも自分の愛を俺にくれてた。



あいしてる



俺が言うと嘘くさく聴こえるけど…勇二を愛してるよ。






__________



夢の中にいるんじゃないかってくらい幸せな気持ちに包まれて眠っていたみたい。

頭を撫でる大きな手のひらの温もりで目が覚めるた。



「…よく眠れた?」



外は薄暗く、もう夕暮れだった。



「ゆ、ゆうじ…?仕事は?」



「速攻で終わらせてきたよ」



遼の髪を梳く長い指先は頬をそっと撫でた。

申し訳ないと感じながらも傍にいてくれる存在に遼は甘えたくなった。

頬を撫でる勇二の指先を両手でぎゅっと掴んですりすりと顔を寄せた。


甘えてくる遼の姿に勇二も愛しさが込み上げて思わず同じ布団の中に潜り込んだ。


お互いの体温がじわじわと溶け出して

強く抱きしめ合う。勇二の胸元に顔を埋めると汗の匂いがした。

きっといつもよりも忙しく駆け回ってここに来てくれたんだろう…


嬉しくてまた涙腺が緩む。

今日は弱ってるせいか子供の頃のように泣くことが素直にできる。勇二が優しく背中を撫でてくれるから、もう我慢しないで甘やかされてしまおう。


ひとしきり抱きしめ合ってお互いの温もりを堪能した俺達はそっとくちづけあった。




「お腹すいたでしょう?二人で卵雑炊でも食べない?」



勇二が幸せそうに笑うから釣られて泣き笑いになってしまう。彼は愛の塊のような人だ。


勇二はぐずぐずになった俺の顔を覗き込みながら困り顔だ。



「遼…なんで泣くの…?俺、泣くような事言った?」


「違うよ…俺が勝手に感動してるだけだから」



「嬉し泣きなら大歓迎!遼の笑う顔を見てると俺は幸せなんだ」




幸せとは儚いもので、そうじゃない悲しい日だってある。無理に幸せになろうとしなくたっていいと思うし、ふわっとした瞬間に幸せだなぁ…って感じることができたらそれで充分だ。




けれど俺の幸せが勇二の幸せって言うんなら敢えて祈ろうかな。





俺が幸せでありますように



俺の大切な人が幸せでありますように



生きとし生けるもの全てが幸せでありますように




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

愛の塊 〜弱ってる僕に君の愛がなにより沁みわたる日〜 りょう @ryo0731

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ