第42話

「………………、」



眞夏の言葉に、児相にー…と言っていた兄を思い出した。



「姉貴は悪くねえよ。ただ、もう親父にも姉貴にも期待はしてない。」




最後の言葉を聞いて思わず瞼をきつく閉じる。


お兄ちゃんの顔、春名さんの顔、見たこともない眞夏の父親の顔、周りの大人たちの顔が浮かんでは消えた。



結局のところ最期まで真夏を守る大人はいなかった。


その事実を達観したように言う眞夏に手を伸ばす。


触れた頬は冷たかった。




「……だから、あんたのことも全然信用してねえ」


「うん」


「優しくされると、どうしようもなく嬉しいのに、時々あんたのことを殺したくなる」



正反対の感情を吐露する眞夏は憂鬱そうな顔をしていた。


髪の毛を耳にかけて、視線を合わせる。




「……話してくれてありがとう」


「、」


「眞夏のお父さんは、眞夏が家にいないと怒る?」


「……むしろいないほうがいいらしい。姉貴がいなくなってから、お前も早く消えろって毎日言われてる」


「そっか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る