第40話
いつの間にか食器も片し終わって、整然としたキッチンに2人分の影が映る。
食器棚には色違いの茶碗が並ぶ。それを眺めていると、眞夏が「ほたる」と呟くようにして私の名前を呼んだ。
目線を眞夏に移すと、相変わらず吸い込まれそうな、黒に限りなく近い濃紺のようなうつくしい闇色の瞳に自分が見えた。
「眞夏さ、」
気を遣わせてごめん。とでも言いそうな眞夏を遮って話しかけると、闇色の中に戸惑いの色を見つけた。
「ここに来ないときって夕ご飯どうしてるの?」
「……カップ麺とか、コンビニ。親父の酒買いに行くときに釣り銭パクって貯めたやつで買う。なかったら食わねえ」
その言葉に衝撃を受けた。
……ガリガリだとは思っていた。
しかしその言葉に、まるで久しぶりにありつくみたいにガツガツと物を食べるのも、食事のあいさつの習慣がないことも、納得がいくような気がした。
それでも。まさかこんな、ほぼ完全に育児放棄の状態だとは。
夕飯がそうなら、朝ごはんやお弁当も同じ状況なんだろう。
ああ、どうして今まで。
この子にとって、母親がいない家庭で姉が、春名さんが唯一頼れる存在だったに違いないのに、それを取り上げられて、今こうして遠い親戚を頼ってまで、餓えから逃れている。
思わず眞夏の手を取った。
「おいで」
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